地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第243回 日高貢一郎さん:青森の方言名のお菓子

2013年3月2日

青森県で見つけた、方言に関するお菓子を2つご紹介しましょう。(第52回第212回も参照)

まず最初は、弘前市の『青森だけのきみようがん』です。

①「青森だけの……」と聞くと、他では手に入らないような珍しいものなのか?と思いますし、続く②「きみようがん」とは、はて何のことだろうか?と考えてしまいます。

(画像はクリックで拡大します)

【写真1】『青森だけのきみようがん』
【写真1】 『青森だけのきみようがん』

①は実は、弘前市の西にそびえる岩木山の麓に「嶽(だけ)」と呼ばれる地域があり、朝晩と日中の気温差が大きくて、夏には非常においしいトウモロコシが採れることで有名なのだそうです。②はトウモロコシを地元では「きみ」といいますが、トウキビのキビが変化したもの。「ようがん」は「羊羹」のことです。

箱の裏に、「きみようがん」の由来が書かれており、そのような説明が載っています。

中身は羊羹としては珍しい黄色い色をしており、トウモロコシの味がして、中にはトウモロコシの粒も入っています。

【写真2】『青森方言豆知識』
【写真2】『青森方言豆知識』

もうひとつは、『青森方言豆知識』です。袋の中には卵を活かしたクッキーのようなせんべいが入っており、表面には豆=落花生がのっています。

箱には、県西部の「津軽方言」と東部の「南部方言」の違いが対比してあります。

津軽弁  おろー [あらら]  どさ [何処へ]
     うじゃめぐ [寒気がする]  えふりこぎ [見栄っぱり]
     ごんぼほり [駄々をこねる]  へば [じゃあね] 
     まいね [駄目だ]  どんだんず [なんなんだ] 
     もつけ [調子に乗る]  あずましい [気持ち良い]  
南部弁  ちゃっちゃっど [さっさと]  さぎまる [先回りする]
     いぎしま [行きがてら]  でんで [誰]
     ごっつりする [いい気になる]  なんたかった[どうしても]
     ぐれっと [根こそぎ]  むんつける [すねる] 
     わがね [駄目だ]  んだすけよ [そうだよね]

以上のような、それぞれの地域に特有の方言語彙が挙げられており、県内でのことばの地域差の一端を表しています。

箱の裏には、弘前市の販売店の名前がありますが、実は、作っているのは遠く離れた岐阜県のお菓子の会社だとのこと。 

そのことについては、次回、詳しくご紹介することにします。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。