北陸新幹線開業後とNHK朝の連続ドラマ「まれ」の舞台によるダブル経済効果と方言使用の状況を追ってみました。北陸鉄道株式会社の話によると,首都圏をはじめ各地から石川県を訪れる観光客は増加しているそうです。そして,輪島など奥能登へ足を延ばす人々のために観光バスが増発されました。(新幹線開通前については第310回「北陸新幹線開業と方言活用」を参照)
観光バス「わじま温泉郷号」では,輪島弁地元ガイド『あかり人』が案内します。『あかり人』は現在31名いますが,岸野欣一さんにお話を伺いました。『あかり人』になるための講習会は第2期を終えたそうで,岸野さんは,第1期生です。
講習会は5日間で,テキストを使用し,能登の里山里海についての歴史,観光のポイント,方言などについてそれぞれの分野の専門家の話を聞きます。方言使用については,「日常生活のままの言葉で案内する」ことを原則としているそうです。苦労する点は,相手が非輪島弁話者なので,観光客から方言で話してくださいと改めて言われるとかえって出てこなくなることだそうです。普段どおりの言葉で話しながら旅情を味わってもらうのがねらいですが,まったくわからないと言われることはないそうです。
能登方言は,口能登方言と奥能登方言に分けられ,ドラマ「まれ」で使用される輪島弁は奥能登方言に属します。能登地方では文末詞として「け」「わいね」「げん」などが使われます。また,文節の切れ目や文末が伸びてゆすりイントネーションと言われる「あの~」「ほやさけ~」〔だから〕などが見られます。
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輪島市コミュニティーバスの名称は「のらんけバス」〔乗りませんか〕【写真1】です。輪島に来たら「のらんけ!」というわけで5つのコースを走っています。能登祭りのシンボル「キリコ」に「きのどくな」〔ありがとう〕【写真2】と書かれたスタンプも売られています。能登弁講座のシリーズとして6種類のスタンプが用意されています。
『月刊北国ACTUS(アクタス)』No.311(2015年6月号)に「まれ」にみる能登弁大研究が特集されています。記事によると方言目当てで輪島に来るファンもいるそうです。視聴者からの声は能登弁が「かわいい」「どこか懐かしい」と好評です。
インターネット上では「アナと雪の女王」で歌われる歌の方言による替え歌が全国各地で盛んに作られていますが,能登弁版は女王もひっくり返るほどの迫力のある男声です。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。