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第46回【司法取引】しほうとりひき

筆者:
2023年6月26日

[意味]

①刑事事件を法廷で最後まで争うには多大の時間と費用がかかるため、それを節約する目的で、検察官と弁護人との間で、他の犯罪情報の提供を条件に事件を軽い処分で決着させようとする制度。②合意制度の俗称。(大辞林第四版から)

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司法取引とは、他者の犯罪を明らかにするため、共犯者が自らの罪を減免してもらう代わりに捜査に協力すること。6月1日で導入から丸5年となりましたが利用はまだ少なく、適用されたのは日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告の報酬過少記載事件など、わずか3件です。

この制度は、大阪地検特捜部による証拠改ざん事件を受けて議論が始まった刑事司法改革の一環。取り調べに過度に依存してきた捜査を見直すものとして導入されました。末端の実行行為者を免責し首謀者を処罰する狙いがありましたが、証人の保護や負担軽減が不十分なこともあり、活用はなかなか進まないようです。

ビジネスデータベースサービス「日経テレコン」で調べたところ、日本経済新聞での「司法取引」の出現記事件数は例年20件前後で、海外企業に関係する国際ニュースがほとんどでした。これが制度導入初年の2018年に102件と急増。この年は7月に国内初の適用があったほか、ゴーン被告の事件発覚もあり制度そのものが注目されましたが、適用事件が少ないこともあってか、翌年以降は再び2桁にとどまっています。

証人保護の考え方が浸透する海外に比べ、内部通報の文化がまだまだ根付いていない日本。組織に属していれば報復を恐れることもあり、捜査協力に二の足を踏む関係者がいてもしかたがないところです。制度をうまく機能させるには、証人を守るための仕組みづくりや運用方法の見直し、処分軽減に対する国民の理解などが欠かせません。

「司法取引」の出現記事件数

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

毎月最終月曜日更新。