リンゴ狩りやイチゴ狩りはドイツでも楽しいレジャーで、selbst pflücken というような言い方をするらしい。
我が家はリンゴ好きで、毎年秋になるとリンゴの季節が到来するのを待ちかね、「千秋」を買い、「秋映」を買い、「シナノゴールド」を買って助走し、ようやく「フジ」が出回るようになると、青森や長野の農協からネットで箱買いをする。たまに「王林」も楽しむが、歯ごたえがあって酸味の強い味の濃いものが好きなので、ドイツのリンゴは一家でとても気に入っていた。どこのスーパーマーケットでも「デリシャス」と並んでよく見かけた緑色の「グラニー・スミス」が特にお気に入りだったが、ただしあれはアメリカ産だったようだ。
数年前一家でドイツにいた折りに、新聞のチラシの小さな記事で、近郊の果樹園でリンゴ狩りをやらせてくれることを知り、週末に勇躍出かけていった。
収穫しやすいように人の背丈ほどに刈り揃えたリンゴの木が文字通りたわわに実を付け、整然と間隔を開けて遠くまで並んでいる。一畝ごとに違う種類が植えられていて、名札がついていた。あれで10種類もあっただろうか。驚いたのは、日本にもある「ジョナゴールド」以外、一つも知った名前がないことだった。「ガラ」「エルスター」「コックス・オレンジ」「ブレバーン」「ピノファ」……後でドイツ人の友人に聞いたら、どれも古くからある銘柄だそうだ。さすがにこちらが本場だから、リンゴの品種改良の歴史は長く、種類も多くて、今では作られなくなった中には、「ビスマルク候Fürst Bismarck」とか「枢密顧問官Geheimratオルデンブルク博士」とか「フォン・ハンマーシュタイン大臣Minister」とか「ルードルフ皇子Prinz Rudolf」などというリンゴもあったという。
いったいどんな味がしたのだろうか。どんな味の違いがあったのだろうか。