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第56回【中堅企業】ちゅうけんきぎょう

筆者:
2024年4月29日

[意味]

規模的に中小企業と大企業の間にあり、証券市場を通じて資本調達を行うことができ、独自の技術力と高い開発意欲を持つ企業。(大辞林第四版から)

[関連]

中小企業

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政府は2月、従業員2000人以下の企業(中小企業を除く)を、新たに「中堅企業」とする産業競争力強化法の改正案を閣議決定しました。2024年を「中堅企業元年」と位置づけているとのことです。

現行法では製造業の場合、従業員が300人以下または資本金が3億円以下の企業を「中小企業」とし、それ以外は「大企業」として扱っています。「中堅企業」という言葉はよく使われますが、これまで法的な定義はありませんでした。

中小企業には税制面などでさまざまな優遇策がありますが、大企業になったとたんにその支援が受けられなくなります。あえて規模の拡大を望まない企業が出てくるのも当然でしょう。「中堅」という新たな枠をつくり、手厚く支援することで、競争力のある中小企業に一段の成長を促すというわけです。設備投資への支援や税制優遇枠の新設も予定されます。

経済産業省によれば、過去10年で国内の中堅企業が大企業に成長した割合は11%で、米国の30%、欧州の22%に比べ低い状況。法改正によって中堅企業を重点的に支援できるようになり、企業の成長と新陳代謝を促しながら、日本経済の底上げにつなげる狙いです。

ちなみに中型国語辞典の『大辞林』『広辞苑』には「中堅企業」と「中小企業」の項目はあっても「大企業」はありません。常用漢字表が改定された2010年以降に刊行(改訂)された主な国語辞典17種で全冊が「中小企業」に触れているのに対し「大企業」を載せているのはわずか3冊。「中堅企業」の4冊にも及びません。三省堂執行役員の山本康一辞書出版部長は「中小企業と違って、大企業には法的な定義がなく、基準が明確でないので。つまり、『大』と『企業』の単純な複合語となるためではないか」と推察します。「中小企業」の基準が載っていれば、現状はそれより大きい企業はすべて大企業なわけですので、載せない判断にもうなずけます。

今後、「大企業」を掲載する辞書が増えるかどうかは分かりませんが、「中堅企業」の語義はより詳しく変わることになるのでしょう。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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