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第57回【一気通貫】いっきつうかん

筆者:
2024年5月27日

[意味]

①麻雀の役の名。同一種の牌で一から九までを集めて成立する役。一通。②生産工程の中での情報システムを首尾一貫させること。(大辞林第四版から)

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「一気通貫」は、もともとはマージャン用語ですが、「商品の開発から製造、販売まで一気通貫で手掛ける」のように「初めから終わりまで全て」といった意味で使われることがあります。記事データベース「日経テレコン」で調べたところ、日本経済新聞では1990年代からポツポツと見え始め、年にゼロ~数件だったものが2013年以降は2桁の出現記事件数となり、右肩上がりで増えています。

1990年代の初期の使用例は、もっぱら話し言葉として談話やインタビュー記事に見られたものですが、現在は徐々に地の文にまで進出。2023年では全34記事のうち7割を超える26件が地の文での使用となっています。マージャンを記事で取り上げることはまれであり、新聞に登場するのはビジネス関連の記事が多数。マージャン用語とは知らずに書いている記者もいるのでしょう。岸田文雄首相の2023年と2024年の施政方針演説の中にも「一気通貫」が出てきました。

常用漢字表が改定された2010年以降に刊行(改訂)された主な国語辞典17種を見ると、「一気通貫」を取り上げているのは3冊で、うち2冊がマージャンと新しい意味を載せていました。早いのは『大辞林』で2006年刊行の第三版から掲載しています。今後、他の国語辞典でも採録されることになるのでしょうか。

ちなみに『現代用語の基礎知識2024』(自由国民社)の中で、常見陽平千葉商科大准教授は「主に中高年の男性が使う、旧態依然とした話し方を象徴するようなビジネス用語」として、「一丁目一番地」「全員野球」などとともに「一気通貫」を代表例として挙げていました。

日経校閲X(旧ツイッター)で2021年12月に「一気通貫」について4択の簡易アンケートをとったことがあります。「聞いたことはない」との回答が1位で45%を占め、「使わないが意味は知っている」が35.4%と続きました(アンケート結果はこちら)。あまりなじみがなくても、漢字が4字並んでいるだけで四字熟語風にもっともらしく見えることがあります。字面から何となく意味がイメージできてしまうところが、アンケート結果に表れたのかもしれません。

何も「一気通貫」と4字で書かなくとも、文脈により「一貫して」「通して」などと書けば済むはずですが、なぜか使われる。「一気通貫」には俗語のようで俗語っぽくないところがあります。漢字4字を並べることで説得力が増す四字熟語の魔力のようなものを感じます。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

毎月最終月曜日更新。