前回は元来ことばになっていなかった音から文字化された間投詞について述べました。今回は同じような成立過程をもつohとahについて考えてみます。(ahは残念ながら立項していませんでした。機会があれば補足したいと思います。)
日本語でもなんらかの状況を前にして反射的に出る語に「あっ」とか「えっ」、あるいは「あれ」「おや」といった間投詞があります。ohとahはその使い方に似ています。次は本辞典のohの語義4の記述です。
4 まあ, あらっ, えっ, ああ, 何と(◆予想しなかったことを見たり聞いたりしたことに応答する強い感情表現. 音の長短・イントネーションの変化が伴う) 《感嘆して》 Oh, aren’t those flowers lovely! まあ, あの花, 何てきれいなんでしょう! / 《同情して》 Oh, I’m really sorry to hear that. まあ, それは本当にお気の毒ですね
対応するahの用法としては次のようなものがあります。(用例は三省堂コーパスから改変。)
《ホテルの窓から外を見て》Ah, beautiful. Just as he promised. あー、ほんとにきれい.彼が言ってたとおりだわ.
この用法が基本的な使われ方ですが、これらの語はこのような直接感情表現として用いられるよりも、むしろ前回言及しました談話辞として働く場合のほうが多くみられます。いくつかあるなかで本辞典から次の語義に注目してみましょう。
6 〈知らなかったことを知ったとき〉えっ, まあ, そうなの? “She is going to marry next month.” “Oh, really? I’ve never heard of that.” 「彼女来月結婚するんだよ」「えっ, そうなの? 初耳だわ」.
ここでのohは前言の内容を知らなかった、予想していなかったという含みがあります。それに対して、ahには、ohとは対照的に、耳にしたことが予想外のことではなく、一時的に意識のなかになかったことを含意する用法があります。
‘Why are there so many people today?’ ‘The Shosoin Exhibition has just started.’ ‘Ah, that accounts for it.’ 「今日はなんでこんなに人が多いのだろう」「正倉院展が始まったんだよ」「そうか、それでか」
ここでahが使われているのは、それまでまったく知らなかったことが伝えられたのではなく、既存の知識にあったもののなかから思い出したことを暗示しています。
このようにみてみますと、基本的用法である、驚きを表すohとahにもそのようなニュアンスの違いが感じられることがわかると思います。上のohの語義4の用例では、その注記にありますように、思っていなかったことに対する驚きを表しているのに対し、ahの最初の例は、「彼」からあらかじめ教えてもらっていたとおりのことであったという、想定の範囲内のことを示しています。
辞書でohとahいずれの語を引いても「あっ」とか「えっ」、あるいは「あれ」「おや」という日本語が目につきますが、相互に言い換えることはできない場合が多いのです。「あっ」と「えっ」の例で言えば、外出先で財布を忘れたのに気がついて、「あっ、財布忘れた!」、登校して1時間目が試験ということがわかって、「えっ、今日試験だった?」と言いますが、それぞれの状況で互いの間投詞を言い換えることはできません。(ちなみに、後者の例で「あっ」を使うと、忘れていたという含みが出てくるでしょう。)
日本語を学んでいる外国人にとって日本語の間投詞を適切に使いこなすことが難しいように、我々日本人にとっても英語の間投詞を正しく使うことは至難の業ですが、基本的な違いを知っておくと多少なりともその微妙な違いを理解するのに役立つはずです。