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第71回【朝令暮改】ちょうれいぼかい

筆者:
2025年7月28日

[意味]

法令などがすぐに変更されて一定せず、あてにならぬこと。朝改暮変。(大辞林第四版から)

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2025年に入り、ニュースで「朝令暮改」を見聞きすることが増えました。これには1月に就任したトランプ米大統領が大きく影響しています。

新聞記事データベース「日経テレコン」で、日本経済新聞の朝夕刊に「朝令暮改」が現れた記事を検索すると、6月30日までの半年間で26件ありました。そのうち9割以上の24件がトランプ氏に関連するもの。「朝令暮改」は2024年までの10年間の平均で年7件ほどしか記事に出現していなかったので、半年だけの数字ですが2025年の突出ぶりがうかがえます。今年に限ればトランプ氏を象徴する四字熟語と言えるのかもしれません。

大統領就任直後から、トランプ氏の気まぐれと思われる発言や朝令暮改の政策決定が、マーケットの変調をはじめ世界経済に混乱をきたしてきました。米国では「TACO」なる造語が広まっているといいます。これは「Trump Always Chickens Out(トランプ氏はいつも腰砕け)」の略で、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のコラムニストであるロバート・アームストロング氏が名付け親とされ、他国に高関税を課すと脅しながら、市場が混乱するとすぐに引き下げることを、皮肉を込めて言ったものです。

トランプ政権は4月、10%の一律分に上乗せ分を加えた相互関税率を発表し、各国・地域と交渉してきました。日本へは7月7日(日本時間8日)、新関税率25%を通告するとともに、交渉期限を8月1日まで延長していました。それが参院選直後に15%で合意に至るなど、事態は目まぐるしく変わります。

かつて日本の政治でも「朝令暮改」が話題になったことがあります。2010年、民主党政権時の鳩山由紀夫首相が国会で「朝三暮四」の意味を問われ、「朝令暮改」と勘違いして説明したというもの。言葉の間違いは無いに越したことはありませんが、「朝三暮四」であれ「朝令暮改」であれ、振り回される側はたまったものではありません。「朝令暮改」は歴史ある語で決して新しいものではありませんが、報道で頻出することから取り上げてみました。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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