続 10分でわかるカタカナ語

第18回 タブレット

2017年7月8日

どういう意味?

もともと「小さな板状のもの」の意で、「錠剤」「鉄道の通票」「板状の情報機器」などのことです。

もう少し詳しく教えて

タブレット(tablet)は英語で本来「小さな板状のもの」を意味します。

英語では、書字板(文字を書いたり消したりできる板)、銘板(建物や施設などに掲示する板)、錠剤、鉄道の通票(通行許可票)などを表します。近年では板状の入力装置や情報端末(「タブレット端末」)をさす言葉としても使われています。

以上のうち日本では、「錠剤」「鉄道の通票」「板状の入力装置や情報端末」の意味で使われてきています。

どんな時に登場する言葉?

医薬品・食品・鉄道・情報通信の分野で登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

大正時代には見られた言葉です。例えばそのころの外来語辞典には「タブレット」の項目がありました。当時のタブレットは、主に「鉄道の通票」「錠剤」「銘板」という意味で使われていたようです。

いっぽう「情報機器」の意味が広まったのは近年のことです。まず20世紀末にコンピューターへの入力装置であるタブレット(ペンタブレット)が普及。2000年代以降になると1枚の板状のコンピューターが登場し、これをさす語として「タブレット(端末)」が使われるようになりました。

タブレットの使い方を実例で教えて!

医薬品・食品の「タブレット」

タブレットは、医薬品や栄養補助食品(サプリメント)の分野で「錠剤」、食品の分野で「錠菓」(ラムネ菓子のような食品)をさします。なお『ミンティア』や『フリスク』などの商品名で知られる菓子は「ミントタブレット」と呼ばれます。

錠剤にせよ錠菓にせよ、その形は「板状」とは言い難いかもしれません。しかしこれらも習慣的にタブレットと呼ばれます。

鉄道の「タブレット」

鉄道で列車どうしの衝突・追突を防ぐ仕組みのひとつに「閉塞(へいそく)」があります。これは線路を区間に区切って「各々の区間にはひとつの列車しか進入してはいけない」というルールをさします。

現代の鉄道では多くの場合、人手を介さない「自動閉塞」を用いています。しかしかつてはこの作業を人力で行った時代もありました。そのときに用いていた道具がタブレットと呼ばれる通票です。これは、列車に対して発行される通行手形のようなもの。実際にはコースター(コップ敷き)程度の大きさの「金属製の円盤」を用いていました。列車の運転手は、停車駅で次の区間専用の円盤を受け取ることで、初めてそこから先の区間を走行できるようになります。

入力装置の「タブレット」

コンピューター用語の「タブレット」は、まず20世紀中に「ペンタブレット(pen tablet)」の略称として普及しました。ペンタブレットとは、平面板とペン状の棒で構成されている入力装置のこと。パソコンでイラストを描く時によく使われます。利用者の間では「ペンタブ」という略称も普及しました。

情報端末の「タブレット」

2000年代に入ると、コンピューターの一形態としての意味も加わるようになりました。平らな板のような形で、パソコンに近い機能を備えた機器のことです。

まず2002年にマイクロソフトが「タブレットPC(Tablet PC)」と呼ぶ概念を発表。板のような形状で、タッチパネルやペンによる操作が可能なパソコンでした(キーボード付きの端末も、そうでない端末も存在した)。つづいてアップルが2010年にiPad(アイパッド)を発表。これ以後、このようなコンピューターが「タブレット端末」と総称されるようになりました。なおタブレット端末やスマートフォンなどの情報機器は、スマートデバイス(→スマート)と総称されます。

言い換えたい場合は?

医薬品・栄養補助食品のタブレットには「錠剤」、菓子のタブレットには「錠菓」や「タブレット菓子」という定訳があります。また鉄道のタブレットは、厳密さを求められない場面なら「通票」という定訳を使えます。

入力装置のタブレットには定訳がありません。「平面板とペンで構成される入力装置」などの補足を試してください。また情報端末のタブレットについては、一部マスコミが「多機能情報端末」という補足表現を使っています。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

「タ」ブレットではなく「ダ」ブレット 『不思議の国のアリス』の作者であるルイス・キャロルが遺した言葉遊びに「ことばのはしご(word ladders)」があります。例えば「cold(冷たい)を warm(暖かい)にせよ」というお題を与えられると、cold → cord(コード)→ card(カード)→ ward(病室)→ warm といった具合に1文字ずつ変えてゆき別の単語に変形させる遊びです。
日本では一部で「タブレット」の名称でも知られている遊びですが、ルイス・キャロルはこの遊びを「ダブレット(Doublets)」と呼んでいました。ダブレットという命名には「お題となる対(ダブル)の言葉」という意味が隠されています。

筆者プロフィール

もり・ひろし & 三省堂編修所

新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

編集部から

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