このカタカナ語、英語で言うと???

第4回 アレンジ(2) ~データでcheck! 編~

筆者:
2021年7月13日

前回、日本語のアレンジは「改変する」「手を加える」といった意味だけれど、英語のarrangeはそうではなく、主に「並べる」「調整する」という意味である、ということを書きました。今回は、このことをデータで確認してみたいと思います。

日本語の「アレンジ」

前回、「design、story、recipe、flowers、song、hairの6語の中で、arrangeの目的語として違和感なく使えるものはどれでしょう?」というクイズを出しました。この6語を選んだのは、日本語のコーパスで見てみると、「デザイン」「ストーリー」「レシピ」「花」「曲」「髪」は、よく「アレンジ」という語とともに現れるためです。

これは、国立国語研究所のBCCWJ(現代日本語書き言葉均衡コーパス)というコーパスからデータをとりました。このコーパスで、「~をアレンジする」の「~」に当たる語を取り出し、ざっくりといくつかのグループに分けてみると、以下のような結果になりました。

■「~をアレンジする」の「~を」に当たる語 全134例中

・「デザイン」の系統:34例   
・「食べ物・レシピ」の系統:29例   
・「音楽」の系統:14例   
・「花」の系統:11例   
・その他:11例   
・不明:11例  
・「技法・やり方」の系統:8例   
・「手配する」の系統:7例   
・「ストーリー・脚本」の系統:5例   
・「配置」「組合せ」の系統:3例   
・「髪」の系統:1例

日本語の中で、「デザイン」「ストーリー」「レシピ」「花」「曲」「髪」などの語が、「アレンジ」という語とともに現れるということがわかりますね。英語のarrangeに最も多い「手配する」の意味は、全体として多くはないものの、「ホームステイをアレンジする」「会議をアレンジする」などの例が見つかります。「髪」はここで見ると1例のみですが、「ヘアアレンジ」「アレンジヘア」などを検索すると、ぐっと数が増えてきます。

英語のarrange

続いて英語のarrangeの側も、データで確認してみたいと思います。

こちらはSketch Engineというコーパス分析ツールのWord Sketchという機能を使って、BNC (British National Corpus)というコーパスを見てみました。Word Sketchは、arrangeの目的語に当たる語の上位100語を、単純な数の多さだけでなく、相関の強さの係数で示してくれます。

■arrangeの目的語に当たる語 上位100語の内訳

・「手配する」「調整する」の系統:88語
・「並べる」「配置する」の系統:20語
・「(音楽を)編曲する」の系統:2語

注1) 合計が100以上になるのは、ひとつの語でも用例ごとに別のカテゴリに入る場合があるため。
注2) arrangeの目的語上位100語の調査であり、ここで0語であることは、0または頻度が低いことを示しており、このような例が皆無であることを必ずしも意味しない。

このように、arrangeでは「手配する」「調整する」にあたるような例が圧倒的に多く、中でも最多なのはmeetingです。meetingに次いでarrangeと相関が高いとされる語は、marriageでした。marriageはちょっと意外でしたが、arranged marriageという形で「見合い婚」としての定着度が高いということがうかがえます。それからappointmentやinterviewなどスケジュールや段取りの手配に関するもの、そしてinsuranceやloanなど、内容の調整といえるようなものもみられます。

「並べる」「配置する」という意味の中では、flowerが全体の5位に入っています。やはりきれいに並べるといえば花が多いのですね。他にはchair、collection、furnitureなどが「並べる」「配置する」の意味で使われています。

日本語の「アレンジ」とともに見ることができた「デザイン」「レシピ」「ストーリー」などの例は、英語のarrangeの目的語上位100の中には、一語もありませんでした。日本語のアレンジは「手を加える」「改変する」が主要な意味になるかと思いますが、英語のarrangeには、やはりこの意味合いは薄いといってよいでしょう。

arrangeは動詞

日本語のアレンジのもうひとつの特徴的な点は、名詞として使われる、ということです。先ほども使ったコーパス(BCCWJ)で単純に頻度を比較しても、名詞の例は動詞の約2倍もあります。「アレンジを加える」「アレンジが利く」といったように、名詞で使うことが多いのですね。

しかし、英語のarrangeは動詞で、名詞として使いたければ、arrangementという形にしなければなりません。ネット検索してみると、「フラワーアレンジ」という言い方をしている人も多いですが、これは、英語ではflower arrangementになります。また、「この曲はアレンジがいいね」といいたい場合は、I like the arrangement of this song.などということになります。

そして、「アレンジを加える」「アレンジが利く」の「アレンジ」は、「改変する」という意味ですね。ですからこれを英語にするときarrangeやarrangementという語を使うと、意図したとおりに伝わらないかもしれません。このような場合は、文脈に沿った、別の言い方を考えるのがよいでしょう。

 

いかがでしょうか。英語のarrangeと日本語のアレンジはだいぶ意味・用法が異なっているということが、データからもおわかりいただけたのではないかと思います。アレンジは、いわゆる和製英語ではありませんが、それでも元のarrangeからは、かなりずれてしまっているのですね。こういったずれがあることは実はとても多いので、しっかりと注意していきたいものです。

 

〈出典〉

 

 

【お知らせ】

2021年9月4日 JACET英語辞書研究会にて、お話しする機会をいただきました。
英語の辞書指導に関心のある先生方、ぜひご参加ください。
https://sites.google.com/site/jacetlex/

筆者プロフィール

武田 三輪 ( たけだ みわ)

日本語教育能力検定合格及び420時間の研修修了。外資系企業(ダイソン・ノキア等)で日本語教育に従事し、その後大手英会話スクールで日常会話、TOEIC800点コース、ビジネス英語等を担当。早稲田大学文学学術院博士後期課程中退。大学院では日本語学を修め、辞書についても研鑽を積んだ。現在はフリーランスの英会話講師として、日本語学の知識を活かした英文法、辞書指導に力を入れながら、話せるようになることに特化した指導をしている。
URL:https://www.takedamiwa.com/
Facebook:https://www.facebook.com/takedamiwa.english
Twitter:https://twitter.com/takedamiwa

編集部から

「日本語風の発音になってはいるけど、メールはmailでしょ」
では、そのまま英語として使えるのでしょうか。
もとの英語とカタカナ語との間にズレがあるもの、そもそも英語ではないもの、カタカナ語のなかにはいろいろあります。
発信が重視される昨今、このカタカナ語、英語で言うと……そんな疑問に答える連載です。