英語から入ってきたのにそのまま英語に直すとおかしくなってしまうカタカナ語、今日は「スタッフ」の話をしたいと思います。
「スタッフ」とは、サービスを提供する側と受ける側がいるとき、サービスを提供する側の人のことですね。たとえばお店なら店員さん、イベントなら案内係や運営の人をスタッフと呼んだりします。お客さんでない側の人のことを、広く指すことができる語ですね。
たとえば「医療スタッフ」は英語でmedical staff、「編集スタッフ」はeditorial staffといえるので、スタッフという日本語は、そのまま英語にあてはめてよいようにも思えます。でも、「あの黄色いTシャツの男の人がスタッフだよ」というときはどうでしょうか。この場合は、×The man in a yellow T-shirt is a staff.ということはできません。(英会話を教えるとき、何度この文を直したかわかりません!)なぜなのでしょうか。
実は、英語のstaffは集合名詞で、「職員全体」とか「運営陣」のことをあらわす語なのです。ですから、基本的に一人ひとりの人を指すことはありません。1人のスタッフを指したいときは、a staff memberとか、a member of staffなどという必要があるのです。(アメリカでは前者が、イギリスで後者が多く使われる傾向にあります。)
「最高のスタッフによるサービス」のように、チームとしてのスタッフを指すときは、service by excellent staffのように、そのままstaffを使うことができます。しかし、「スタッフに話しかけた。」というときは、1人の人を指しますね。そういったときは、I talked to a staff member.というのがよいでしょう。または、場所によって、具体的な職業名で呼ぶのもよいかもしれません。たとえばレストランならスタッフという代わりにwaiter/waitressでよいでしょうし、一般的な店ならshop assistant(店員さん)やcashier(レジの人)など、また病院ならdoctor、nurse、receptionistなどで呼ぶことを考えてもよいと思います。
「スタッフになりたい」というようなときも、日本語が母語の人が言おうとすると、×I want to be a staff.となってしまうことがとても多いです。ここは、I want to join the staff.などにするのがよいですね。
そして、staffについては気をつけておきたいことが、もう1つあります。サービス提供者側全体を指すstaffを、単数として扱うか、複数として使うか、という問題です。
A: The staff at the hospital is kind.
B: The staff at the hospital are kind.
のどちらが適切なのか、ということですね。
これは、母語話者の間でもどちらを使うかに揺れがあり、おおまかな傾向としては、アメリカでは単数扱いのA、イギリスではBのような複数扱いをすることが多い、とはいえそうです。この点については、また次回詳しくお話しする予定です。
スタッフとstaffは、意味的には、大きなズレはありません。しかし、文法的にはかなり異なるものです。日本語の名詞は数の概念を含まないので、慣れるまでは不思議な感じがしますが、こういうところがことばのおもしろさなのだろうと思います。
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【お知らせ】
2021年9月4日 JACET英語辞書研究会にて、お話しする機会をいただきました。
英語の辞書指導に関心のある先生方、ぜひご参加ください。
https://sites.google.com/site/jacetlex/