前回、staffという語は集合名詞で、1人の人としてのスタッフのことは指さない、という話をしました。staffとスタッフは、意味はそれほど変わらないにもかかわらず、文法的なありかたが、まったく違うのですね。
A: The staff at the hospital is kind.
B: The staff at the hospital are kind.
そして、アメリカではAのように単数として表現されることが多く、イギリスではどちらかというとBの複数扱いが多い、ということも、前回述べました。しかし、どちらの地域でも両方の例がみられ、どちらを使っても間違いということはできません。母語話者の間でさえ、どちらをとるか、揺れている例だということもできるのです。
「人の集団をひとまとまりのものとしてとらえる名詞」は、staffのほかにもfamily、team、crew、crowd、audience、generationなどなど、たくさんありますね。これらはみな、辞書では「集合的に」と書いてあり、その多くに「単複両扱い」であることが記載されています。
familyだと、各辞書こんな感じです。familyに限らず、staffやcrewなども、ぜひお手持ちの辞書で調べてみてください。
「単複両扱い」だということは、「ご家族はお元気ですか?」と聞きたいときに、How is your family?でもHow are your family?でも、どちらでもよいということです。しかし、データを比べてみると(注1)、アメリカ・イギリスともにHow is your family?の方が優勢ですが、アメリカは5:1と圧倒的に単数扱いが多いのに対し、イギリスは2:1ぐらいと、複数扱いの割合が、アメリカに比べて多くなっています。
単複両扱いになるということは、「全体をひとまとまりの集団としてとらえるときは単数扱い」で、「1人ひとりの構成員を意識するときは複数扱い」という使い分けがある、ということです。staffやfamilyに限らず、全体的な傾向として、アメリカ英語では複数扱いをすることは少なく、イギリスではこの単数か複数かの使い分けをする人が多い、といってよさそうです。
しかし、中には基本的に複数扱いで、単数とはとらえられないものもあります。personnelは多くの辞書で《複数扱い》《通例複数》などと書かれていますので、チェックしてみてください。personnelはstaffと意味が似ているのに、不思議ですね。また、policeも通例複数扱いで、The police are still investigating the murder case.(警察は、いまだにその殺人事件の捜査をしている。)のように、複数でいうのが普通です。辞書に《複数扱い》とあるものは、isやdoesをとることは基本的にありません。ですから、みつけたらすぐに覚えてしまってくださいね。
固有名詞にも、人を集合としてとらえるものがあります。たとえば国名などが、これに当たります。日本人全体を集合的に指すときは、ふつうtheをつけて複数扱いにし、The Japanese are thought to be modest and diligent.(日本人は、控えめで勤勉だと考えられている。)のように使います。ちなみに、個々の人を指すときのJapaneseは、「単複同形」です。1人の日本人を指してa Japaneseということもあれば、Japaneseで複数の日本人を指すこともある、ということですね。(I am Japanese.というときのJapaneseは形容詞なので、冠詞はつけません。)そして、AmericanやGermanなどは単複同形ではなく、単数形がan American、複数形はAmericansです。集合的に全体を指すときは、the Americansで複数扱いをする、ということになります。どの国が単複同形でどの国がそうでないかは、辞書で調べてみてくださいね。いくつか見ていくと、傾向がつかめるのではないかと思います。
バンド名やチーム名なども、人の集合をあらわす固有名詞ですね。the Beatlesなど有名なバンドは辞書にも載っていて、《複数扱い》としているものも多いので、ぜひチェックしてみてください。BeatlesやYankeesなど、名前にsがついていれば、複数扱いするというのも直感的に理解できますが、QueenとかMaroon 5といった名前でも、複数扱いにされることはあります。先日K-popグループのBTSについて調べていたら、Why is BTS so popular?(単数扱い)とDo BTS have girlfriends?(複数扱い)が並んで出てきました。やはり両方使われることがあるのですね。
集合名詞は、日本語を母語として話す人間にとっては、とてもやっかいで、ややこしいものです。でも、上に挙げたようなしっかりとした辞書は、みなこういった複雑な点を、意外ときちんと記述してくれているものなんですよ。記号やカッコに入った部分をしっかり読みとることで、英語力をアップさせましょう!
〈出典〉
- 三省堂『ウィズダム英和辞典 第4版』 iPhoneアプリ「辞書 by 物書堂」版 (2019)
- 旺文社『オーレックス英和辞典 第2版』iPhoneアプリ「辞書 by 物書堂」版 (2017)
- 大修館書店『ジーニアス英和辞典 第5版』 iPhoneアプリ「辞書 by 物書堂」版 (2017)
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【お知らせ】
2021年9月4日 JACET英語辞書研究会にて、お話しする機会をいただきました。
英語の辞書指導に関心のある先生方、ぜひご参加ください。
https://sites.google.com/site/jacetlex/
[注]
・例えば”family is”と”family are”を検索しても、たまたまその並び順になっているだけで、主語-動詞の関係になっていないものも含まれており、それを取り除くことが困難である。
・この2つのコーパスの規模や設計のしかたが異なるため、厳密には比較できない。
・そもそもコーパスから読み取るべきものは、厳密な数値ではない。