人名用漢字の新字旧字

第45回 「島」と「㠀」

筆者:
2009年10月22日
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旧字の「」は子供の名づけに使えませんが、灬を省いた新字の「島」は子供の名づけに使えます。つまり、新字の「島」は出生届に書いてOKですが、旧字の「」はダメ。でも、旧字の「」は、「嶋」に形を変えて、人名用漢字に影響を及ぼしているのです。

昭和21年11月16日に内閣告示された当用漢字表には、新字の「島」が収録されていて、旧字の「」はどこにも含まれていませんでした。昭和23年1月1日に施行された戸籍法施行規則は、子供の名づけに使える漢字を当用漢字表1850字に制限しました。この結果、新字の「島」は子供の名づけに使えますが、旧字の「」は子供の名づけに使えなくなってしまったのです。その後、常用漢字表の時代になって、新字の「島」は常用漢字になりましたが、旧字の「」は人名用漢字になれませんでした。

平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、常用漢字や人名用漢字の異体字であっても、「常用平易」な漢字であれば人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、平成12年3月に文化庁が書籍385誌に対しておこなった漢字出現頻度数調査、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。

追加候補選定基準 漢字出現頻度数調査
200回以上 50~199回 1~49回
不受理の法務局数 11以上 JIS第1~3水準 JIS第1・2水準 JIS第1・2水準
8~10 JIS第1~3水準 JIS第1・2水準 JIS第1水準
6~7 JIS第1~3水準 JIS第1水準 JIS第1水準
0~5 JIS第1・3水準 - -

旧字の「」は、JIS X 0213の第4水準漢字だったため、審議の対象になりませんでした。これに対し、山を左に移した「嶋」は、JIS X 0213の第1水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が1479回だったため、出生届の不受理が全く報告されていなかったにもかかわらず、人名用漢字の追加候補になりました。一方、山を上に移した「嶌」は、JIS X 0213の第2水準漢字で、出現頻度が13回で、出生届の不受理がなかったため、追加候補になれませんでした。

平成16年8月25日、人名用漢字部会は、人名用漢字の追加候補488字を選定し、法制審議会に報告しました。この488字の中に、旧字の「」は含まれていませんでしたが、「嶋」が含まれていました。報告を受けた法制審議会は、平成16年9月8日の総会で、追加候補488字をそのまま法務大臣への答申としました。そして平成16年9月27日、戸籍法施行規則が改正され、これら488字は全て人名用漢字に追加されました。この結果、現在では、「嶋」と新字の「島」は出生届に書いてOKで、「嶌」と旧字の「」はダメなのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター准教授。京都大学博士(工学)。JIS X 0213の制定および改正で委員を務め、その際に人名用漢字の新字旧字を徹底調査するハメになった。著書に『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字コードの世界』(東京電機大学出版局)、『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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