人名用漢字の新字旧字

第39回「桧」と「檜」

筆者:
2009年7月16日

新字の「桧」は人名用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「檜」も人名用漢字なので、子供の名づけに使えます。つまり、新字の「桧」も旧字の「檜」も、出生届に書いてOK。実は「桧」と「檜」は、同時に人名用漢字になったのです。

昭和17年6月17日に国語審議会が答申した標準漢字表には、旧字の「檜」が収録されていて、新字の「桧」がカッコ書きで添えられていました。「檜(桧)」となっていたわけです。ところが、昭和21年11月16日に内閣告示された当用漢字表には、「檜」も「桧」も収録されていませんでした。さらに、戸籍法が昭和23年1月1日に改正された結果、旧字の「檜」も、新字の「桧」も、子供の名づけに使えなくなってしまったのです。そしてそのまま、半世紀が過ぎていきました。

平成12年12月8日、国語審議会は表外漢字字体表を答申しました。表外漢字字体表は、常用漢字(および当時の人名用漢字)以外の漢字に対して、印刷に用いる字体のよりどころを示したもので、1022字の印刷標準字体が収録されていました。この中に、旧字の「檜」が含まれていました。印刷物には新字の「桧」ではなく、旧字の「檜」を用いる方が望ましい、と、国語審議会は文部大臣に答申したのです。

法制審議会のもと平成16年3月26日に発足した人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。新字の「桧」は、漢字出現頻度数調査の結果が40回で、全国50法務局のうち12の管区で出生届を拒否されたことがあって、 JIS X 0213の第1水準漢字だったので、人名用漢字の追加候補となりました。これに対し、旧字の「檜」は、出現頻度が836回で、出生届を拒否した窓口が8管区にまたがっていて、第2水準漢字だったので、やはり人名用漢字の追加候補となりました。

平成16年6月11日、人名用漢字部会は、578字の追加案を公開しました。この578字の中に、新字の「桧」と旧字の「檜」が両方含まれていました。「莱」と「のケースと違って、人名用漢字部会は、「桧」と「檜」をまとめるようなことはしませんでした。「桧」に関しては、表外漢字字体表の印刷標準字体「檜」に気がねすることなく、人名用漢字の追加候補としたのです。

平成16年9月8日、法制審議会は人名用漢字の追加候補488字を、法務大臣に答申しました。この488字には、「桧」と「檜」の両方が含まれていました。3週間後の9月27日、戸籍法施行規則は改正され、これら追加候補488字は全て人名用漢字になりました。それ以来、新字の「桧」も旧字の「檜」も、出生届に書いてOKなのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター准教授。京都大学博士(工学)。JIS X 0213の制定および改正で委員を務め、その際に人名用漢字の新字旧字を徹底調査するハメになった。著書に『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字コードの世界』(東京電機大学出版局)、『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

//srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。