日本方言学の母・東条操氏の方言区画によると、長野県のことばは、本土方言のうちの東部方言に分類されます。さらにその中に東海・東山方言というまとまりがあり、お仲間の山梨県・静岡県の頭文字をとって、「ナヤシ方言(ヤナシ方言とも)」と呼ばれることがあります。
その3県で共通して用いられる語として、推量の意味を表す「ずら〔=だろう〕」があります。
長野県の北部では、あまり使われませんが、山梨県と接している東部や静岡県に近くなる中部・南部では、よく使われます。
商品の命名にも使用され、「いいずら」(清酒/大町市、写真参照)、「うめえずら」(浅漬けの素/岡谷市)などと親しまれています。
諏訪湖周辺は、戦国期の武田勝頼(母が、諏訪頼重の娘)に象徴されるように、何かと甲州とつながりの深い地域です。
町を歩けば、「武田屋敷」という看板を掲げた居酒屋があったり、市立図書館の郷土資料の棚には、山梨の郷土資料の基本文献を網羅した「甲斐叢書」が鎮座していたりします。また、土産物店の食材コーナーには、山梨の名物「ほうとう」がデンと並び、信州ソバの肩身が狭い感じもします。
かつて製糸業が盛んだった時代も、女工さんたちは、飛驒側の野麦峠からよりも、山梨県の大月方面からたくさんやってきたそうです。
山梨の話題で力んでしまいましたが、「ずら」が身近にある信州人にとっては、静岡のちゃっきり節「きゃアる〔=蛙〕が啼くんで雨づらよ」の一節もまた、とても親近感のあるものです。