(第3回からつづく)
常用漢字表への追加提案
「玻南」ちゃんが誕生する3年前の平成17年9月13日、文化審議会国語分科会の配下で、漢字小委員会が発足しました。常用漢字表1945字の見直しをおこなうためです。漢字小委員会は3年にわたる審議ののち、平成21年1月27日の国語分科会に、2131字からなる「新常用漢字表(仮称)」に関する試案を報告しました。2131字の中には、「浄瑠璃」を書くために「瑠」と「璃」が追加されていましたが、「玻」は含まれていませんでした。国語分科会は、この試案に対して広く一般国民からの意見を募るべく、3月16日から4月16日まで意見募集をおこないました。
ここで集まった意見をもとに、漢字小委員会はさらなる審議をおこない、平成21年11月10日の国語分科会に、2136字からなる「改定常用漢字表」に関する試案を報告しました。国語審議会は、新しい試案に対しても同じように、11月25日から12月24日まで意見募集をおこないました。そうしたところ、「玻」を常用漢字に追加してほしい、と提案する意見が、95通も集まったのです。
意見: 瑠や璃が常用漢字表に入るなら、瑠璃と対で用いられることの多い玻璃の「玻」もぜひとも常用漢字表に加えるべきだと思う。
4月の意見募集では「玻」の追加提案は全くなかったのに、12月には95通も送られてきたのです。しかも不思議なことに、「玻」の追加提案95通のうち、90通が愛知県・岐阜県在住者からの提案であり、地域分布がかなり偏っていました。それもそのはず、これらの追加提案の大半は、「玻南」ちゃんの両親とそのシンパが送ったいわば組織票だったのです。常用漢字に「玻」が追加されれば、子供の名づけにも使うことができるはずだ、という非常にあざとい提案だったわけです。
平成22年1月19日、漢字小委員会は、「玻」の常用漢字表への追加を審議しました。漢字小委員会の態度は、しかし、「玻」の追加に対して冷淡なものでした。「固有名詞は常用漢字表にそぐわない」というのが、委員の大勢でした。というのも、新しい試案には、常用漢字表の基本的な性格が5つ挙げられていて、その3番目が以下のとおりだったからです。
3 固有名詞を対象とするものではない。ただし、固有名詞の中でも特に公共性の高い都道府県名に用いる漢字及びそれに準じる漢字は例外として扱う。
「玻」を追加提案した95通は、大半が、試案のこの部分を読まずに提案されたものだったのです。
(第5回「国語審議会と人名用漢字」につづく)