帝国大辞典
明治29年(1896)10月7日刊行
藤井乙男、草野清民共編/本文1407頁/菊判(縦226mm)
三省堂による初めての国語辞典。古語から現代語(隠語・方言)までの和語、漢語、外来語を集め、見出し語数は約5万7000。当時としては、『和漢雅俗いろは辞典』(明治21~22年初版、明治25~26年増訂二版)に次ぐ多さである。
我が国の近代的国語辞典の出版は明治21年(1888)から始まり、まだ10点を越えていない状況にあった。物集高見の『ことばのはやし』『日本大辞林』、高橋五郎の『和漢雅俗いろは辞典』、大槻文彦の『言海』、山田美妙の『日本大辞書』といった、現在と同じ形式の内容を有する、活版印刷による国語辞典がさかんになり始めた時期である。
本書は、『日本大辞書』(明治25~26年)の改訂原稿を買い取って、先行辞書を参考にしながら短期間に編集された。『日本大辞書』との相違点は、活用語の見出しの活用部分も平仮名にしたり、アクセント表示をやめたり、語釈は片仮名主体を平仮名主体にしたうえ文語体に改めている。つまり、他の多くの辞書と同じ方式が採用された。また、見出しを引く助けとして、ページの下に五十音を掲げる工夫がある。ただし、「ゐ」「ゑ」をヤ行に入れた頁が多くあり、後に訂正された。当然、『日本大辞書』との類似点もあり、特に「ん」を「む」と別に扱って五十音順の最後とした点が先見的な特徴である。
●最終項目
をんをん 副詞 (温温) 気象のやさしくあるをもいふ。
●「猫」の項目
ねこ 名詞 (猫) ①人家に飼養する獣にて、人に馴れ易く、よく鼠を捕る、形ち虎に似て小く、性質睡りを好み、寒を畏る、毛色は種々あり、其眼は、朝円く次第に収縮し、正午は、針のごとく、午後はやがて旧に復す。②旧幕時代の末より芸妓の異名をいふ。
●「犬」の項目
いぬ 名詞 (犬、狗) 家に飼養する獣類なり、性質極めて人に馴れ易く、怜悧にして主に忠なり、体に大小あり、毛色も亦ひとしからず、今時、洋犬を飼養するもの多し、性質和犬よりも猛烈にして狩猟に馴れたり、種類甚だ多し、かりいぬ、むくいぬ、すぱにえる、かめ、などいふ。 ○[慈鎮和尚]「おもひぐまの人はなかなか、無きものを、あれにいぬの主を知りぬる」。
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