三省堂辞書の歩み

第30回 広辞林

筆者:
2014年7月16日

広辞林

大正14年(1925)9月25日刊行
金沢庄三郎編/本文1763頁/菊変形判(縦201mm)

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【広辞林(初版)】3版(大正14年)

【本文1ページめ】

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【広辞林(新訂版)】314版(昭和11年)

【本文1ページめ】

本書は『辞林』の全面的な改訂版である。『辞林』の初版は明治40年(1907)に発行され、同44年に本文を24頁増やした増補があった。

大きな変革は見出しの仮名遣いにある。まず、漢字音の仮名遣いを「写音的仮字遣」と称する表音式にして、歴史的仮名遣いの不便を軽減した。また、促音の「っ」だけに使われていた小書きを拗音の「ゃゅょ」でも用いた。

外来語の長音符号「ー」は、「あ」の前に配列した方式を変え、読まない方式にした。すなわち、「アーチ」は「あち」の後にくる。これは、のちに外来語辞典や百科事典などの主流となった方式である。

本書は『辞林』の縮刷版と同じ4段組で、活字が小さくて読みにくかった。昭和 9年(1934)の新訂版では、『辞林』初版と同じ3段組に戻されている。奥付の版数(刷数)は連続していて第160版が最初の新訂版である。

なお、初版でも新訂版でも、足助直次郎が編纂に尽力した旨が凡例に記されている。新訂版では、見出しに古語や方言、漢字音を表す記号が付かなくなった。

『広辞林』はその後も改訂を続け、昭和33年(1958)に新版、昭和48年(1973)に第五版、昭和58年(1983)に第六版を発行。「第五版」は『辞林』から数えた版数である。

●最終項目

(初版)
をんな[女](名、副) ((「をみな」の音便))①め。めのこ。をうな。をなご。女性。婦人。②温柔なる天性を有するものとしての婦人。③はしため。つかひめ。下女。下婢。
(※子項目は画像を参照)

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(新訂版)
をんなめ[妾](名) そばめ。めかけ。てかけ。

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●「猫」の項目

(初版)
ねこ[猫](名) ①【動】食肉類の小獣、多く人家に飼養せらる、頭円く尾長し、体軀は狭長にして屈伸自在、体に柔毛密生し毛色種種あり、瞳は夜間円大なれど日中には豎針状となる、よく鼠を捕ふ、もと熱帯地方の動物なるが故に、性来暖気を好む。②{芸者の異称。③{知りて知らぬさまをなすこと。又、其人。④{本性をつつみかくして平凡をよそほふこと。又、其人。⑤{土製の「あんくゎ」。(東京の方言)。
(※子項目は画像を参照)

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(新訂版)
ねこ[猫](名) ①【動】食肉類の小獣、多く人家に飼養せらる、頭円く尾長し、体軀は狭長にして屈伸自在、体に柔毛密生し毛色種々、瞳は夜間円大なれど日中には豎針状となる、よく鼠を捕ふ、もと熱帯地方の動物なる故に、性来暖気を好む。②芸妓の異称。③知りて知らぬさまをなすこと。又、其人。④本性をつつみかくして平凡をよそほふこと。又、其人。⑤土製の「あんくゎ」。(東京の方言)。⑥ねこいらず。
(※子項目は画像を参照)

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●「犬」の項目

(初版・新訂版)
いぬ[犬](名) ①【動】食肉類の獣、世界至る所に家畜として飼養せらる、性怜悧にして、視官は鈍けれど、聴官と嗅官とは最も鋭敏なり、種類極めて多く、用途頗る大なり。②まはしもの。諜者。
(※子項目は画像を参照)

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(初版)

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(新訂版)

筆者プロフィール

境田 稔信 ( さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

編集部から

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。