岡山方言は、地図で見ると東に関西方言、西に広島方言の間に分布します。「ほんま、よーけ、あるでー(ほんとにたくさんあるよ)」などは、関西方言に近く、「きょーてー(恐ろしい)」などは、広島県の一部でも使われています。
岡山に「ぼっけー(すごい)」という方言があります。岡山方言は、「あけー(赤い)」「めーる(参る)」のように母音が重なった場合に長音になるのが特徴の一つです。岡山方言トランプを買って開けてみると1枚目に出てくるのがジョーカーの「ぼっけぇ」【写真1】です。岡山駅の新幹線ホームにも「ぼっけぇ大つぶ」【写真2】とぶどうの宣伝があります。また、駅構内のスーパーマーケットには手書きで「ぼっけぇ うみゃぁけぇー(とてもおいしいから)」と書いてありました。
足を延ばして倉敷市に行きますと、「ぼっけーェ辛口 爺爺婆婆(じじばば)」(【写真3】地酒販賣会社 土手森)があります。日本酒の辛口度が非常に高いのが特徴だとのこと。店頭には、にごり酒の「おわがんせェ(おあがりください)」も並んでいます。お店の方に聞いてみると、「ぼっけぇ」はホラー小説『ぼっけえ、きょうてえ』(とても怖い・岩井志麻子著・1999年 第6回日本ホラー小説大賞受賞)で全国的に知られるようになり、お酒の名前にも採用するようになったとのことです。
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「ぼっけぇうめぇ(とてもおいしい)」(岡山北商工会 平成24年度地域力活用新事業∞全国展開プロジェクト企画のパンフレット)や「ぼっけぇでけぇ」(すごく大きい・第238回 )でも「ぼっけぇ」が使用されています。
このように「ぼっけぇ」は、岡山を代表する方言と言えます。岡山方言はとても勢いがよく、その中にぬくもりを秘めています。方言の使用には、「好き:嫌い、恥ずかしい:恥ずかしくない」などという意識が働きますが、「使いやすい:使いにくい」というようにことばから受ける印象も作用します。
例えば、岡山の本屋さんで見つけた、本の帯の「あんたも買うて帰られー(買って帰ってください・吉備人出版2006年)」や先ほどの「おわがんせェ」は、「~してください」という勧める意味があります。地元の人の話によると、話し手は、ただ勧めているつもりなのですが、他の地方から来て聞いた人には、命令しているように聞こえるといった印象がそれにあたるでしょう。
最近、若い世代の人たちは、「でっけぇ」「うめぇー」などで驚きやうれしい気持ちを表現しています。創作力を生かして、気持ちをこめやすい形に改造しているのです。新鮮な響きを加えることで方言も新語として生まれ変わります。「ぼっけぇ」もその仲間に入るのではないでしょうか。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。