明解漢和辞典
昭和2年(1927)3月19日刊行
宇野哲人編/本文877頁/三五判変形(縦152mm)
本書は三省堂にとって、明治37年(1904)刊行の『漢和新字典』以来、23年ぶりの漢和辞典である。三省堂編輯所が編纂したものとしては、大正2年(1913)刊行の『大正漢和大辞典』以来、14年ぶりとなる。
収録親字数は6488、熟語数は約2万5000。親字には通し番号が振られており、巻末の「総画索引」に掲げてある数字はページでなく、通し番号になっている。
本のサイズは、大正11年(1922)刊行の『袖珍コンサイス英和辞典』に等しい、いわゆるコンサイス型である。書名に「明解」を使った辞書は、三省堂では大正14年刊行の『明解英和辞典』に次ぐ。しかし、漢和辞典では大正15年に『明解漢和大字典』(石塚松雲堂)の刊行があった。
序文によると、編纂にあたっては西山栄久(山口高等商業学校教授)と足助直次郎(三省堂編輯所)の助力があったという。そして、昭和31年9月以降に加わった「字形索引」は小倉虞人によるものと追記された。
本書の特徴は、字音の五十音順に親字が配列されていること。配列は表音式だが、引きやすくなっているとは言いがたい。例えば「コウ」は「コウ(カウ)」「コウ(カフ)」「コウ(クヮウ)」「コウ」の順に分けてあるため、正確な仮名遣いが分からないと、探す手間がかかってしまうからだ。もちろん、全く字音が分からなければ総画索引で引くことになる。
字音には、呉音・漢音・唐音などがあるが、本書では明記されていない。ただし、宋音を表す「(宋)」の表示があり、音がふたつ並んでいるときは右が漢音、左が呉音である。慣用音や通用音は括弧に入れて「(慣)」「(通)」としている。さらに、中国語(北京音)の発音をローマ字で掲載した。
漢和辞典は本来、古典漢文での字義や熟語を載せることを主としているが、本書では昭和初期の現代国語の熟語も少なくない。例えば、「社」には「社債」「社会劇」「社会教育」「社会主義」「社会問題」「社団法人」などがある。また、時には「若年寄」のような訓読みの熟語も載せている。まれに中国語の俗語も載せてあり、現代性を意識していたようだ。
初版刊行の半年後、9月の11版からは「増訂版」と称し、本文の前に「部首別索引」(62頁)が追加された。部首索引では、通し番号でなく、ページの数字を載せている。なお、巻末の「総画索引」には画数ごとに部首の見出しが入り、41頁から51頁に増えた。
昭和33年には158版が発行されているから、30年を超えるロングセラーとなった。ただし、小書きの「っゃゅょ」を用いてはいるものの、文語文のままで、戦後の当用漢字新字体や現代かなづかいによる変更はされていない。
戦後の版では、確認できた限り、後付において以下のような相違がある。
同29年3月146版「総画索引」51頁。
同32年2月154版「字形索引」42頁、「難字音索引」8頁。
同33年10月158版「字形索引」42頁、「難字音索引」8頁、「総画索引」51頁。
154版は総画索引がなくなり、凡例では親字の通し番号の説明が「見出字毎に其下に番号を記しあるは、旧版に附せし総画索引に便ならしむる趣旨なりしも、今回新たに字形索引を以てこれに代へし為め、番号の意義を失へり。又将来何等かの用途もあらんかと敢へてこれを残せり」と変わった。158版では総画索引が復活したので、元の記述に戻してある。
そして、昭和34年3月、長澤規矩也による「新版」では内容が一新され、本のサイズも変更となり、同じ書名のままなのが不思議なほどの様変わりを遂げた。
●最終項目
●「猫」の項目
●「犬」の項目