三省堂辞書の歩み

第32回 ジェム英和・和英辞典

筆者:
2014年9月10日

ジェム英和・和英辞典

(初版)大正14年(1925)9月10日刊行
三省堂編輯所編纂/本文(英和)543頁+(和英)548頁/B7判変形(縦109mm)
(改訂版)昭和9年(1934)9月18日刊行
三省堂編輯所編纂/本文(英和)571頁+(和英)576頁/B7判変形(縦113mm)
(新訂版)昭和27年(1952)10月10日刊行
三省堂編修所編纂/本文(英和)560頁+(和英)560頁/B7判変形(縦102mm)

【ジェム英和・和英辞典】7版(大正14年)

【英和本文1ページめ】

【和英本文1ページめ】

【ジェム英和・和英辞典】改訂111版(昭和23年)

【英和本文1ページめ】

【和英本文1ページめ】

【ジェム英和・和英辞典】新訂1版(昭和27年)

【英和本文1ページめ】

【和英本文1ページめ】

本書の英語での書名は、SANSEIDO’S GEM DICTIONARYである。GEMの意味は「宝石」。日本語による書名表記は奥付だけにあり、「ジエム辞典(英和・和英)」となっている。

本のサイズは『袖珍英和辞典』(大正6年)と等しい。装丁は総革で、天・地・小口のすべてに金を施した三方金という豪華なものである。定価は2円80銭だから、『袖珍コンサイス英和辞典』(大正11年)の2円より高かった。翌年5月には、英和と和英を別々にして『ジェム英和辞典』『ジェム和英辞典』も刊行されている。こちらは三方金がなく、定価1円30銭だった。

改訂版の前書きには、以下のような記述がある。

「小柄で、シークな姿で出版界にデヴユーした当時、世人には先づ好奇の微笑を以て之を喜び迎へたやうに思はれたが、その限られたスペースに盛られた内容の整美と充実が知悉せられるに及んで、好奇の微笑は徐に讃美の声とさへ変つて行つたのであつた」
(※「シーク」=「シック」)

初版は『袖珍英和辞典』『袖珍和英辞典』の構成を基礎とし、『袖珍コンサイス英和辞典』『袖珍コンサイス和英辞典』と同様の現代性が見られる。改訂版は初版から9年後で、英和・和英ともに28頁ずつ増えた。

なお、昭和22年以降の改訂版は、巻末に「新語篇」が加わった。英和が12頁、和英が14頁あって、例えば和英には「原子爆弾」「平和国家」「戦争廃棄」「戦争犯罪」「戦災者」「戦災復興事業」「日本打倒戦勝日」「是々非々」などが載っている。

新訂版は、時代の変化に対応して死語などを削り、新語・米語を加え、平易な用例と新しい語義を載せている。また、当用漢字字体表(昭和24年)による新字体となり、カタカナ交じり文はひらがな交じり文に変わった。当然、現代かなづかい(昭和21年)だが、まだ歴史的かなづかいが残っている箇所も散見される。

本書は小型で簡潔な内容が好評のため、改訂が続いて現在では第7版が発売されている。

第4版 昭和38年(1963)3月1日刊行
 第5版 昭和44年(1969)11月1日刊行
 第6版 昭和58年(1983)12月20日刊行
 第7版 平成11年(1999)8月7日刊行

●最終項目【英和】

(初版・改訂版)
zymotic. [形]醱酵ノ,醱酵ニヨッテ生ジタ;醱酵病ノ,酵性病ノ.

(新訂版)
zymotic. [形]発酵の;発酵病の.

*初版の英和

●「猫」の項目【英和】

*初版の英和

●「犬」の項目【英和】

*初版の英和

●最終項目【和英】

(初版・改訂版)
zūzūshii ヅウヅウシイ impudent; audacious; shameless.
 ヅウヅウシクモスル to have the face [cheek] to

(新訂版)
zūzūshii ずうずうしい impudent; audacious; shameless.
 ずうずうしくもする have the face [cheek, gall] to….

*初版の和英

●「猫」の項目【和英】

*初版の和英

●「犬」の項目【和英】

*初版の和英

筆者プロフィール

境田 稔信 ( さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

編集部から

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。