コンサイス独和辞典
昭和11年(1936)4月5日刊行
山岸光宣編/本文1148頁/三五判変形(縦152mm)
本書は三省堂における3冊目の独和辞典で、『大正独和辞典』(大正元年・1912)から24年ぶりの新刊だった。
前著まで、ドイツ語にはドイツ文字(亀の甲文字)が使われていたが、本書にはラテン文字しか使われていない。語釈の漢字カタカナ交じり文は変わらず、外来語は「もんたーぢゅ」というふうに平仮名書きだった。「狼狽ス」「狼狽セル」といった文語形も多い。難読語における括弧に入れた2行の読み仮名は、まだ縦書きのままである。
新たな点は、万国音標文字で発音を表示したことだ。独和辞典では、昭和2年の『最新独和辞典』(有朋堂書店)が最初に採用した。三省堂の英和辞典では、『袖珍コンサイス英和辞典』(大正11年・1922)から採用されていた。
収録語彙は、社会科学・自然科学・軍事などの現代語や新語を豊富に採用し、重要な地名・人名も収録している。「コンサイス」とはいえ、「我ガ国ノ如何ナル既刊大辞典ヲモ凌駕シテヰルコトハ断言シテ憚ラナイ」と緒言にある。専門用語については80あまりの分野別に略語を記し、その数は『大正独和辞典』より倍増した。
編者の山岸光宣(1879~1943)は東京帝国大学独文科を卒業し、早稲田大学で教鞭を執った。戯曲などのドイツ文学に造詣が深く、ドイツ学研究の第一人者である。
昭和16年に出版物の配給業務が一元化され、その影響で総羊革製だった本書の装丁は擬革になった。しかし、定価は3円90銭のままである。昭和19年3月に発行された212版(4円50銭)の奥付には「100,000部」の記載があるから、戦時中にもかかわらず、売れ行きは好調だったようだ。
●最終項目
●「猫」の項目
●「犬」の項目