婦人家庭百科辞典
昭和12年(1937)4月20日刊行
三省堂百科辞書編輯部(代表者斎藤精輔)/本文1614頁/菊判(縦224mm)
本書は、昭和9年刊行の『新修百科辞典』と『学習百科辞典』に続く、百科事典の三部作として出版された。一般的な項目はもちろん、家庭生活のうえで必要な衣食住に関する事項に重点を置き、育児・衛生・療病・美容・趣味・礼儀・娯楽などの常識を備えるための事典となっている。
内容見本には「七大特色」として、「一巻で完結していること」「内容が頗る豊富なること」「検索が格別容易なること」「内容に責任が持てること」「図版が誠に重宝であること」「索引が完備していること」「製本印刷が優美なること」が挙がっている。
書名に「家庭」を使った百科事典は、冨山房の『日本家庭百科事彙』(明治39年)、『日本家庭大百科事彙』(4巻、昭和2~6年)があった。また、女性を対象にしたものは、婦女界社から『家庭百科重宝辞典』(昭和8年)が出ていた。これは月刊誌「婦女界」の附録になった6分冊を1冊にまとめたものである。
本書の見出し方式は『新修百科辞典』と同様で、発音式仮名遣いに歴史的仮名遣いをカタカナで小さく添え、長音符号の「ー」は読まない。解説文は、重要度に応じて大小の活字を使い分け、詳説を加える場合も小活字を用いた。また、振り仮名を多めに付け、小活字の場合は括弧内にカタカナで読み仮名を入れている。
項目ごとに執筆者名があり、『日本百科大辞典』(明治41年~大正8年)を思わせる形式である。解説が詳しくなったり衣食住に関する項目が増えたりしたためか、あまり百科的ではない「辞書」「辞典」のような項目は載せない傾向にある。
「味の素」の解説は『新修百科辞典』よりも詳しく書いてあり、さらに「特長」という詳説が付いている。以下に、『婦人家庭百科辞典』と『日本家庭大百科事彙』の「味の素」の解説を比較しよう(『家庭百科重宝辞典』には項目がない)。
『婦人家庭百科辞典』
調味料の一種。小麦粉・大豆その他の蛋白質を分解してつくった白色の結晶で、主成分はグルタミン酸ナトリウム塩である。明治四十一年池田菊苗博士が昆布の味を研究し、アミノ酸の一種のグルタミン酸塩類が昆布の美味の根源であることを知り、蛋白質を分解してグルタミン酸曹達をつくることに成功してできたもので、故鈴木三郎が右発明を工業的に実施し、世に供給し始めた。(詳説の「特長」は省略)
『日本家庭大百科事彙』
池田菊苗博士が昆布の味を研究してアミノ酸の一種グルタミン酸を含むことを知り、その結果発明した一種の調味料で、小麦粉からグルテン(麩素)を分離して塩酸で加水分解した後アルカリで中和すれば得られる個体である。化学上の成分はグルタミン酸のナトリウム塩である。グルタミン酸塩は我々に甘い味覚を起させるもので調味料としての生命はこの点にある。(詳説の「味の素の用ひ方」は省略)
本文途中にある写真やカラー彩色図版は、『新修百科辞典』より2点多い71点が挟み込まれている。犬の写真は15点あって、『図解現代百科辞典』(昭和6~8年)の21点よりは少ないが、『新修百科辞典』の8点から大幅に増えた。本文のページ数は500頁ほど減ったものの、39頁にわたる索引が付き、定価10円、特価7円は同じである。
なお、本書は2005年に筑摩書房(ちくま学芸文庫)から復刻本が刊行された。
●最終項目
●「猫」の項目
●「犬」の項目