三省堂がいかに印刷にこだわって書籍をつくってきたか、ここまでにくりかえし述べてきたが、その品質に対する第三者からの評価はどうだったのだろうか。興味深い記事を見つけたので紹介したい。
時代はすこしあとになるが、昭和17年(1942)10月発行の『印刷雑誌』第10号(印刷雑誌社)に掲載された「印刷優秀書籍の出版、印刷所順位」(P.15-16)である。これは日本出版文化協会の印刷製本技術監査で、同年6~8月の3か月間に「印刷技術優良書籍」として挙げられたものの書名、出版社名、印刷所名を集計したものだ。
記事によれば、優良書籍として発表されたもの以外の、佳良と認められるべき書籍も含めて、出版社総数211社、優良・佳良書籍数 6月173点、7月161点、8月132点で、合計466点が挙げられたという。
誌面にはそのうち、印刷製本技術の優良・佳良書籍を5点以上挙げた出版社名が掲載されている。
岩波書店25点、三省堂16点、河出書房11点、芸艸堂9点、新潮社9点、有斐閣9点、研究社8点、甲鳥書林8点、山海堂8点、創元社8点、錦城出版社7点、弘文堂7点、冨山房7点、金原書店6点、(以下各5点)朝日新聞社、共立出版会社、古今書院、克誠堂、小学館、生活社、全国書房、ダイヤモンド社、筑摩書房、南山堂書店
また、優良図書として推奨されたなか、2点以上を手がけた印刷所も掲載されている。
精興社印刷所12点、三秀舎9点、内外出版印刷株式会社9点、三省堂印刷所7点、大日本印刷株式会社4点、玄真社3点、堀内印刷3点、康文社、富士印刷会社、秀功堂、交進社各2点
同記事では、これらの上位印刷所はもちろん、優良図書が1点ずつの印刷所名を列記して、〈何れも技術的定評ある印刷所のみであることは、日頃の態度が的確にここに反映されるものとして、これまた面白いものである〉とまとめている。
さて、三省堂の結果はどうだったろうか。出版社としては2位、印刷所としては4位という好成績。しかも、「出版・印刷所順位」のどちらにもその名が挙がっているのは、三省堂のみである。
印刷所を自前でもつ出版社として、書籍をつくる工場として、うつくしい印刷にこだわり、技術を磨いてきたことが、その受け手からも高く評価されていたことが裏づけられる記事である。[注1]
余談だが、かつて印刷関係教育機関には、どのようなものがあったのだろうか。昭和5年(1930)に刊行された『職業の解説及適性』(東京地方職業紹介事務局)には、次の教育機関が挙げられている。[注2]
◯東京高等工芸学校 東京市芝区新芝町
入学資格 中卒、修業年限三年。
印刷工芸科 生徒数 六十一人。
写真科 同 十九人。◯東京府立工芸学校 東京市本郷区元町
入学資格 尋卒、修業年限本科五年、選科二年。
製版印刷科アリ。◯大阪府立今宮職工学校 大阪市西成区西四条
入学資格 尋卒、修業年限本科三年、高等科三年、夜学二年。
印刷科アリ。◯精美堂印刷学校(共同印刷株式会社附属)東京市小石川区久堅町百八番地
入学資格 高小卒、研究科、後期修了者乃至年齢十八歳以上ニシテ印刷工業ニ関スル相当の学力技芸資格を有スルモノ。
修行年限 前期二ヶ年、後期二ヶ年、研究科一ヶ年。
なお、東京高等工芸学校(通称:高等工芸)は現在の千葉大学工学部、東京府立工芸学校(通称:府立工芸)は現在の東京都立工芸高校である。
[参考文献]
- 『職業の解説及適性』(東京地方職業紹介事務局、1930)
- 「印刷優秀書籍の出版、印刷所順位」『印刷雑誌』第10号(印刷雑誌社、1942年10月)
[注]