滞在していた某国で、事情があって日本人ばかりで小旅行に出かけたところ、「絨毯見学」とかいう名目でビルの一室に連れ込まれる一幕があった。
「隣国の絨毯に比べて、我が国の絨毯がいかに優秀か」と、絨毯屋のボスが日本語でまくし立てると、2人の男たちが絨毯を丸太のように抱えて進み出て、ザザーッと広げる。
いかがですか、こちら100万円です、お気に召しませんか、そうですか、まあ見るだけ見て行ってください。
その絨毯の上にまた別の2人が別の絨毯を広げる。
こちらシルクです、600万円です、いかがですか、まあ見るだけ見てください。
さらに絨毯を広げる。またその上に広げる。広げる。広げる。十枚以上の絨毯が広げ重ねられる。これ片付けるだけで大変な手間だよな~。
「見ているだけでは絨毯の良さはわかりませんね。踏んでみてください」と言われて、最初は絨毯に乗っていた人たちも、雰囲気に気圧されて、いつの間にか部屋の壁際に追い詰められている。
「日本の家はせまいでしょ。小さいのもあります」こんどは玄関マットが出てくる。こちら7万円です。かばんも出てくる。「お茶どうぞ」現地のお茶も出てくる。どんどん出てくる。
誰かが何か買わないと帰れないよ~。誰か犠牲になってよ~という皆の祈りが届いたのか、なんとな~く標的にロックオンされた一人の男性が店員と値引きの交渉を始めた。
「この絨毯、140万円だったかな。40万にならない?」
決裂をねらったものか、めちゃくちゃな値切り方。だが、絨毯屋は慌てない。
「絨毯の織り子さんたちの気持ちも考えてあげてください」
外国人が「~さんの気持ちも考えてあげて」? 私は目を見張った。日本人がこのフレーズにとことん弱いと、なぜ知っている。異国の地で油断していたが、こいつら、相当の手練れの者。できる!
この調子で交渉が続けば、ひょっとして。いや、まさか、そんなはずは。。。
だが、それは起きた。
「お客さん、きびしいなー。そんな冷たいこと、言わんといて」
絨毯屋はついに関西弁をしゃべりだし、『関西人』キャラになった。
この戦さの結末はあえて書かないが、絨毯屋たちの攻勢に終始したことは言うまでもない。
絨毯屋たちにこんな日本語教えた奴、出てこい! 出てきて、日本語コミュニケーションについて、論文書いてください。お願いします。