『男』と『女』で違うのは文(第66回)だけではない。ここでは文節について見てみよう。
『男』が助動詞「だ」と結び付きやすいということは、文についても「雨だ」と「雨」のペアなどを挙げて示した通りである。だが、文節ではこれがさらにハッキリする。たとえば「弁護士が、財産を、…」などとしゃべる話し手は特に『男』でも『女』でもないが、「弁護士がだ、財産をだ、…」のように助動詞「だ」を付けてしゃべるのは『男』である。
いまは「弁護士がだ、」のように、文節が助動詞「だ」で終わっている例を挙げたが、「だ」の直後に間投助詞が付く場合もほぼ同様である。といっても、「弁護士がださ、」がおかしいように、間投助詞「さ」はそもそも助動詞「だ」と共起しないので、間投助詞「さ」については特に何も言えない。このように間投助詞は一つ一つの個性が無視できないので、以下では「さ」以外の主な間投助詞(「ね」「な」「よ」)を個別に取り上げる。
まず間投助詞「ね」について。「弁護士がね、財産をね、…」などとしゃべる男性はめずらしくもないが、このしゃべり方は『男』っぽくない。だが、助動詞「だ」を入れて「弁護士がだね、財産をだね、…」と言うのは『男』である。
次は間投助詞「な」である。「弁護士がね、」と比べれば「弁護士がな、」はずっと『男』っぽいが、これはあくまで傾向に過ぎない。たとえば老いた母親が子にゆっくり話して聞かせてやる場合、「弁護士がな、…」というしゃべり方はまったく不自然というわけではないだろう。ところが、助動詞「だ」を入れて「弁護士がだな、財産をだな、…」の形にするともはや話し手は『男』でしかなくなる。
間投助詞「よ」の場合はイントネーションが重要になる。そもそも、間投助詞が付く付かないにかかわらず、文節には少なくとも2通りのイントネーションがある。その1つは文節末を急上昇させるイントネーションで、もう1つは戻し付きの末尾上げ(第14回)、つまり文節末でポンと高くして、その後下げる方法である。間投助詞「よ」の場合、この2つのイントネーションの違いが『男』と『女』を分ける。
たとえば「弁護士がよ、財産をよ、…」を、文節「弁護士がよ」「財産をよ」それぞれの末尾「よ」でイントネーションを急上昇させて発音するのは、『女』のしゃべり方である。また、「弁護士がよぉ、財産をよぉ、…」のように書き分ければ察しがつきやすくなるだろうか、文節の末尾でイントネーションをまずポンと高くし(「よ」の部分)、次いで下降させる(「ぉ」の部分)のは『男』のしゃべり方である。ところが助動詞「だ」を付けると、もはや『女』の可能性はなくなる。「弁護士がだよ、財産をだよ、…」と話すのは『男』でしかない。文節が急上昇調でしか発せられないにもかかわらず、である。
このように「さ」以外の主な間投助詞「ね」「な」「よ」を観察すると、間投助詞ごとに違いがあるとはいえ、助動詞「だ」と『男』が結び付くことは皆同じである。
え、「主な間投助詞」というのが気になります? 「主な」と断る以上、「主」でない間投助詞もあるんだろう、ですか?
げっへへ、旦那にはかなわねえや。けど、今回は紙面が尽きちまった。次回お話しいたしやしょう。