今回は、和歌山県田辺市周辺で集めた味覚に関する景観方言(街角で見つけた方言)を中心にお話します。
【写真1】は、伊賀忍者の装束をした“たなべぇ”がほっぺたにごはんつぶがついているのもかまわず、「こいはうまい!」(これはおいしい!)とあがら丼を食べています。
「あがら丼」【写真2】の「あがら」とは、「わたしたち」という意味です。「わたしたちの自慢の丼」という意味で、名付けられたそうです。自分のことを「あが」と言います。一人称の代名詞「吾」に助詞「が」がついた形です。「田辺へ来たらあがら丼を食べな、あかんど」(紀伊田辺に来たらわたしたちの自慢の丼をぜひ食べてくださいね)と地元の人が勧めていました。「食べな、あかんど」は、直訳すると「食べないといけませんよ」です。「あかんど」の“ん”は、中部地方から沖縄まで分布する少し強い否定の「~ない」です。「もう、話さん」「あがは、知らん」などと言います。
「魚にするか、肉がええか?」【写真3 魚にしますか、肉がいいですか】は、海の幸、山の幸、どちらも味わいのある特産品であることをアピールしています。「ええか」(いいか)は、関西方言です。勝浦町のほうに行くと「ええにおいのし」(いいにおいですね)などと言います。「のし」(~ですね)は、文末につける丁寧なことばで、21世紀に残したい和歌山のことば10に入っています。
「にが! うま! 大人味。」【写真4 にがい! うまい! 大人味。】は、大阪府、三重県などにも見られる表現で、「にがい!」「うまい!」の“い”を省略した表現です。「あま!」(甘い!)「いた!」(痛い!)など、そのときの感覚をインパクトを持って伝えます。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。