人に誘いかける言い方は、方言差が豊かでした。今は使われなくなったその勧誘表現が、新たな価値を持って、商品名や施設の名などに使われています。
伊豆半島の稲取温泉には、「くわっせ」というお菓子があります。「食べなさい」の意味です。一方この地域のパンフレットなどでは「こらっしぇ」という言い方が使われます。インターネットのGoogle mapで検索すると、稲取温泉の店の宣伝やクチコミ以外に、他の地域でも使われることが分かります【下図参照】。
またGoogle mapでは、似た言い方の「らっせ」「らんしょ」などの分布も分かります。このような表現は、方言集にはあまり出ませんが、インターネットで集められるのです(Google地図の保存方法については、第127回をご覧ください)。
これまでのシリーズでも、第13回と第143回で東北や九州の施設で似た発想の方言が使われていることが指摘されています。また第39,44,49,54,59,64,69回で扱われた各地の「もてなしの方言」にも、似た表現が混じっています。
商品名やクチコミの用例でなく、店名施設名として確立した勧誘表現は、電話帳で分かるはずです。様々なインターネット全国電話帳を見ましたが、Yahoo電話帳//phonebook.yahoo.co.jp/が便利で、全国の店名が一覧できます。
「らっしぇ」を使っている施設名は、福島県の一つでした。
JA会津みなみ藤の郷直売所よらっしぇ
それにひきかえ、「らっせ」は、あちこちの施設で使われています。「道の駅 らっせぃみさと そばの郷」は、岐阜県恵那市三郷町にあります(ホームページ//www.rassei.com/)。
他に以下の店が見つかりました。
宇都宮餃子「来らっせ」【池袋餃子スタジアム】
こらっせ新庄(山形県)
インターネットを使うと全国(ときには全世界)の様子が分かります。これは面としての情報で、鳥瞰図にあたります。研究者が偶然目にする、または足を運んで確かめるという調査法は、点としての情報で虫瞰図と言えます。
今回の東日本大震災の津波被害は、立体航空写真の撮影技術を持った民間機と自衛隊機と自治体が連携すれば、被害の様子が全地域総なめで分かるはずです。これも鳥瞰図のレベルの情報です。