地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第178回 日高貢一郎さん:方言ネクタイはいかが?

2011年11月26日

男性のおしゃれで特に目立つのは、ネクタイでしょう。色・柄・デザイン・素材・大きさ(幅)などにその人のセンスや好みが表れますし、ずいぶん印象が違ってきます。

ちょっと変わり種のネクタイとして、「方言」をあしらったものがあります。

(クリックで拡大表示します)

【写真1 金沢弁の方言ネクタイ3種】
【写真1 金沢弁の方言ネクタイ3種】

以前(平成6年)、大阪なんばの高島屋デパートが、父の日のプレゼント用などにと、おもしろ企画として、大阪の名物=タコ焼きや、けつねうどん、通天閣、関西空港、などをデザインしたネクタイと並んで、「方言ネクタイ」を何種類も作って大変話題になったことがありました。(詳しくは、日本方言研究会編『方言の現在』所収の拙稿「方言の有効活用」を参照)

おそらく全国的には同様な“ご当地ネクタイ”がいろいろ登場しているだろうと思いますが、そのひとつ、金沢の「方言ネクタイ」を手に入れました。

パッと見ただけでは「方言」とは気づかないかもしれませんが、目を近づけてよ~く見てみると、次のような方言が実にたくさん、ネクタイの全面に斜めにびっしりと並んでおり、それに太字で書いた語が混じっていて、変化を付けるアクセントになっています。

あだける あてがいな あのおんね あらみち あんか
いーじー いかなてて いさどい いじっかしい
うつぶらいかく うまそい うら えびす えんじょもん
おいだすばせ おいね おゆるっしゅ かさだかな
がっぱになる かやる がんこ きときと きまっし … 

このネクタイは、金沢美術工芸大学の視覚デザイン専攻の学生たちが、金沢をアピールしたいとデザインしたものだそうで(平成17年)、方言版(エンジ・紺の2色)の他に、友禅流し、加賀鳶、加賀野菜、石川県の地図を図案化したものなどもあり、全部で6種類、色違いを入れると合計13のバラエティーが作られたとのこと。

正絹で2500円(+税)と手頃な価格設定もあって、地元の人たちにも、また観光客からも大変好評で、息長く売れ続けており、平成19年には第2弾も作られ、このときに方言版はピンク・紺・ダークグレーの3色に増えた由。

【写真2 金沢弁の方言リスト(77語を収録)】
【写真2 金沢弁の方言リスト(77語を収録)】

方言ネクタイには、書かれている方言とその意味がわかりやすいように、大剣(幅の広いほう)の内側にポケットを付けて小さな「方言のリスト」を入れる心配りまでされています。

それには「金沢弁―日本の共通語―English」の3つが対比されていて、「Let’s start step1 ア行」から「Finale! step7 ヤ行 so, you are a master of kanazawa dialect!!」まで、合計77語が紹介されています。
 裏表紙には、「Let’s spread kanazawa dialect over the world 金沢弁を世界中に広めよう!」とあります。

その土地らしい名産品や、代表的な風景、建造物、食べ物などと並んで、地元の方言がネクタイに取り入れられ、それが男性の胸元を飾って地域PRの一助にもなっている……。
 考えると、ちょっと楽しい遊び心の表現になっています。

《参考》 『北国新聞』(平成17年12月3日朝刊)で、このネクタイのことが紹介されました。また、金沢の古書店「近八書房」のブログでも、この新聞記事と方言ネクタイが写真入りで紹介されています。//chikahachi.exblog.jp/2585953/

情報提供:加藤和夫・金沢大学教授

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。