地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第177回 井上史雄さん:沖縄方言カレンダー「琉球暦」
Okinawan dialect calendar (Ryukyu-goyomi)

筆者:
2011年11月19日

サンフランシスコの日本町に行ったら、沖縄物産の店があり、琉球暦(りゅうきゅうごよみ)を売っていました。これまで沖縄県では見たことがありません。このチャンスを逃したら入手不可能と考えて買いました。変わったアメリカみやげになりました。

(クリックで拡大表示)

【写真1】
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【写真2】
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日めくりですので、毎月繰り返し楽しめます。ところで沖縄方言の言い回しでポピュラーなものは、Tシャツなどでもよく見られるので、次のものだと思います。【写真1】

 「なんくるないさぁー」
  (なんとかなるさ)

支払いに追われる月末にふさわしいのは確かですが、31日なのは残念です。1年間に、大の月の7回しか目にしないわけですから。

ことばについての言い回しもいくつかあります。その一つは象徴的です。【写真2】

 「うまれじまの くとぅば わしんねー くにん わしゅん」
  (生まれ島の言葉忘れたら国も忘れる)

今まさに沖縄で起こっている現象で、若い人は方言を使えず、学校で復活運動をやっているくらいです。かつては琉球王国だったという意識は、もう消えているでしょう。

ほかにさまざまなことわざや警句が沖縄方言で書いてあります。共通語訳もついていますから、くらべながら読むと、勉強になります。沖縄方言は母音の数が少なく、また文法もかなり違うが、語順は本土方言と変わらないことも、見当がつきます。方言集だと単語だけなので、文全体がどれくらい違うのかが分からないのですが、このカレンダーは沖縄方言の特徴全般を知るのに役立ちます。

カレンダーの最後をよく見たら連絡先が書いてありました。アメリカに行って買う必要はありません。

 日本ビジネスサポート  0120-338-633
  ryukyugoyomi@nbiz-support.jp

また以下のページでも紹介されています。//www.rakuten.co.jp/ryukyu-goyomi/

なお方言カレンダーは大阪のもあります。イタリアのは第122回で紹介しました。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。