蔵王町遠刈田(とおがった)温泉に、堺のだんなが描いた「とおがったワクワクマップ」があります。マップには、遠刈田の54軒のお店が紹介されています【写真1】。
堺のだんなは、遠刈田で堺養魚を営んでいます。堺のだんなの仕事は、約50万匹の稚魚の養魚と、竿、エサ無料のつりぼりと、釣った魚の塩焼きをお客に食べてもらうことです。魚を育てているんだか、食べさせているんだか、ちょっと複雑ですが、育てた分だけ食べさせてしまうと魚がいなくなるから食べさせる数のほうは少し少な目なのかもしれません。堺のだんなは、1か月か、2か月かの間隔で4コマ漫画の「とおがっちゃん日記」(2008初版発行・【写真2】)を発行しています。その漫画には、遠刈田の宝物の方言がふんだんにちりばめられています。「とおがった いがった」(遠刈田 よかった・【写真3】)というバッジやタオル、ストラップも販売されています。
「とおがっちゃん日記」の主人公とおがっちゃんは、こけし顔の温泉好きのおっとり、のんびり型の女の子で、町花の桃の花を頭につけています【写真4】。近所にとおがっちゃんに思いを寄せるいがっちゃんという男の子がいます。いがっちゃんのおじさん(呑兵衛)で、いがっ太郎として登場する遠藤裕一さん(えんそうコーヒー&レストランマスター)にお話を伺いました。
漫画に登場するキャラクターにはそれぞれモデルがいらっしゃるそうで、いがっちゃんの母親は遠藤さんの奥さんで、食べまくりのかあちゃんということになっています。とおがっちゃん日記(「旅市」2009.6Vol.9・【写真2・右】)を見ると、いがっちゃんのおじさんが「いいとこいっぺー紹介すっかんね!(いいところをいっぱい紹介するからね!)」と旅行客を案内しています。旅行客が帰ろうとしても「いいとこいっぺあっから」と客を引きとめています。遠藤さんに案内してもらうと話がつきないことを堺のだんなが皮肉ったのです。いがっちゃんが「おんちゃん(おじさん)、もうみんな宿に帰ったよ」と心配して迎えに来たというシーンです。
遠藤さんは、精肉店&食堂の大八さん、木村商店さん、菅井みやげ物店さんなど、通りにある店の方たちといっしょに、遠刈田を紹介したり、「とおがっちゃん日記」を配布したりしながら地域文化を支えています。菅井みやげ物店の若旦那はお嫁さんを探しています。温泉もあるのでぜひお嫁に来てくださいとのことでした。方言研究者には、このような活躍の場もあるのです。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。