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曲のエピソード
もともとプロのミュージシャンで、後にプロデューサーに転向した鬼才フィル・スペクターが生み出したサウンドを、俗に“The Wall of Sound”と言うが、この場合、直訳の「音の壁」よりも「(壁のように)分厚い音」と意訳した方がピッタリくるのでは、と筆者は勝手に考えている。とにかく彼が生み出した数々の曲はサウンドが幾層にも重なった色彩の絵巻物の如くゴージャス極まりないから。もちろん、もちろん、ロネッツにとっての初の大ヒット曲となったこの「ビー・マイ・ベイビー」(初めて日本でリリースされた際の邦題は「あたしのベビー」だったが、後にカタカナ起こしに変更)のサウンドもまた、その例に漏れない。
ロネッツはロニー・スペクターことヴェロニカ・ベネットが姉のエステル・ベネット・ヴァン(2009年に死去)、従姉妹のネドラ・タリー・ロスと結成した女性トリオ。1960年代はまさにガール・グループス全盛時代だったが、ロネッツの結成当初はグループ名を Ronnie and the Relatives といった。トリオを結成してから2年後にレコード・デビューを果たすも、全くヒットに結びつかず。しかしながら、スペクターとの出逢いが彼女たちの運命を大きく変えたのだった。彼女たちの快進撃はスペクターが経営するレコード・レーベルと契約した瞬間に約束されていたようなもので、瞬く間に人気者のガール・グループに。「ビー・マイ・ベイビー」は、彼女たちにとって代名詞的な大ヒット曲である。
私生活では、ロニーは1968年にスペクターと結婚するものの、1974年(1973年という説もあり)に離婚している。結婚生活に終止符を打った後、ロニーはソロ・シンガーに転向した。
スペクター自身は、目下、殺人容疑でカリフォルニア州立刑務所に収監されている。ややエキセントリックな人ではあったが、音作りの面においては妥協を許さないイメージがあったので、機会があれば、ぜひともミュージック・シーンに復活して欲しいものだ。
曲の要旨
初めてあなたに会った夜、すぐにあなたに惹かれたわ。あなたが私のことを愛してくれたら嬉しいんだけど、ダメかしら? あなたと私が恋人同士になったら、きっとみんなに注目されるカップルになれると思うの。だから私の恋人になってちょうだい。私だけのものになって欲しいの。あなたは私が求めていた男性像にピッタリよ。いつまでもあなたと一緒にいたいの。だからお願い、私だけのものになってちょうだい。
1963年の主な出来事
アメリカ: | 公民権運動の指導者マーティン・ルーサー・キング・Jr.が統率したワシントン大行進が行われ、有名な演説“I Have A Dream”が披露される。 |
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第35代大統領ジョン・F・ケネディがダラスで暗殺される。 | |
日本: | 東京都内で、当時4歳だった男の子が誘拐され(世に言う“吉展ちゃん誘拐殺人事件”)、日本中を震撼させる。 |
世界: | 南ヴェトナムでクーデターが勃発し、ゴ・ディン・ジェム大統領が暗殺される。 |
1963年の主なヒット曲
Walk Right In/ザ・ルーフトップ・シンガーズ
I Will Follow Him/リトル・ペギー・マーチ
Sukiyaki/キュー・サカモト(坂本 九)
My Boyfriend’s Back/エンジェルス
Finger Tips ― Pt. 2/リトル・スティーヴィー・ワンダー
Be My Babyのキーワード&フレーズ
(a) make someone turn his head
(b) be my baby
(c) just wait and see
子供の頃からモータウン・サウンドに親しんでいたせいか、ガール・グループス――マーヴェレッツ、マーサ&ザ・ヴァンデラス、シュープリームス、ザ・トイズ…etc.――が大好きで、今でも彼女たちのLPを愛聴している。もちろん、ロネッツもその例外ではなく、子供の頃、初めて「Be My Baby」をFEN(現AFN)で耳にした時には、そのサウンドのゴージャスさとロニー・スペクターのやや鼻にかかった甘い歌声に酔いしれたものだった。日本でこの曲が初めてリリースされた時の邦題が「あたしのベビー」だと知ったのはずっと後になってのことだが、筆者が持っている日本盤シングルでは邦題がカタカナ起こしの「ビー・マイ・ベイビー」になっている。「ベビー」が本来の発音に近い「ベイビー」に変えられた点に、時代の流れを感じずにはいられない。
一見、もとい、一聴すると、単純な歌詞である。理想の男性に巡り会った女性が彼に対して「私のベイビー(=恋人)になってちょうだい」と懇願する歌詞だからだ。それでも全米でNo.2,全英でNo.4,そしてR&BチャートでもNo.4を記録する大ヒットとなった。思い返してみると、ジャンルを問わず、1960年代のガール・グループスや女性シンガーの歌詞は、他愛のない恋愛の歌や、恋する少女のような歌が多かった。もちろんこの「Be My Baby」もその例外ではないが、こうしたタイプの曲が多く大ヒットした当時の世相を顧みるに、恋に恋する女性が多かったのでは、と漠然と考えたりする。例えばR&B/ソウル・ミュージックに関して言えば、女性が歌うドロドロとした男女関係のラヴ・ソングは1960年代からあったものの、そうしが歌詞が急激に増え始めたのは1970年代に入ってからだと記憶する。不倫ソングが増えたのも1970年代になってからである。
「みんなが注目するカップル」という表現は、ラヴ・ソングでたびたび耳にする。(a)は直訳するなら「~が振り返る」だが、この曲では、「私とあなたが恋人同士になったら、街行く人々が思わず振り返るほどステキなカップルになるわよ」と歌っているわけだ。(a)を含むフレーズを深読みすれば、「だから私とあなたはピッタリの恋人同士になれるわよ」といったところか。「どこへ行っても私とあなたは注目の的よ」と意訳してもいいだろう。ここのフレーズから、相手の男性(ロニーが後に結婚するスペクターのことか?)がハンサムであることが判る。もちろん、ロニーは文句なしに可愛らしくて美人だ。
そしてタイトルの(b)。洋楽のラヴ・ソングに出てくる“baby”がほとんどの場合「赤ちゃん」ではなく「愛しい人、愛する人」だということはみなさん先刻ご承知だろうが、これに匹敵する日本語がない。筆者は訳詞をする際に、呼びかけの“baby”をカタカナ起こしの「ベイビー」にしてしまうのだが(“愛しい人よ”だと堅苦しい日本語になってしまうため)、例えば(b)を日本語に訳すなら、「私のベイビーになってちょうだい」よりも「私の恋人になって欲しいの」、「私だけのものになってちょうだい」と訳すだろう。(b)のフレーズを他の英語に置き換えるなら、次のようになるだろうか。
♪Be mine.
♪Be my only one.
恋する女性(女の子)の気持ちは純粋で切ない。
(c)のフレーズの前には「あなたを幸せにしてあげるわ」という一節がある。ということは、(c)は通常通り「今に見てなさいよ」よりも「必ずそうしてあげるから」といった意訳の方がピッタリくるのではないだろうか。しかしながら、残念なことにロニーとスペクターの結婚生活は“幸せ”とは程遠かったようだ。そのことが気の毒でならない。