信州から上州に入ると、途端に風景が変わります。「関東平野」と言われるごとく、山の稜線がはるかに遠のいて、広々とした眺めになります。
峠を越えれば、言葉も変わることは、古来意識されてきたようで、意志・勧誘・推量の助辞の違いに目を向けた川柳や駄洒落が各地に伝えられています。
万座峠(長野県上高井郡高山村牧と群馬県吾妻郡嬬恋村の境)には、
此の処アチャとダンベの国境
があり、碓氷峠(長野県北佐久郡軽井沢町と群馬県松井田郡横川町の境)には、
碓氷峠の権現様はズラとダンベの国ざかい
があります。
その「だんべ」を看板に大きく掲げるお店(居酒屋)がJR高崎駅前にあります。
代表の別府公博さん(東京都出身)にお話を伺ってみたところ──
群馬の地で、群馬産の食材を中心に扱うというお店のコンセプトを打ち出すために、群馬の方言を是非とも使いたかったこと、加えて、自分の苗字の音(ベ)を生かしたかったとの由。
店名も効いてか、現在、地元の常連さんと観光客が半々を占めているそうです。
このほか、Yahoo電話帳(第142回で紹介)などを見ると、群馬県内には、「だんべ」「だんべえ」を命名に用いているものとして、
前橋市 「だんべうどん」(うどん店)
「前橋だんべえ踊り」(市民まつり)高崎市 「だんべえ本舗風間堂」(菓子舗/薄皮饅頭「だんべえ」)
「上州だん米(べえ)焼き」(餅菓子)渋川市 「段兵衛」(ラーメン店)
などがあります。
群馬県の皆さんの「べーべーことば」に対する強い愛着は、
上州のべーべー言葉がやんだらべー なべやつるべは どうするべー
[=上州の「べー」という言葉がなくなってしまったら、鍋や釣瓶は、何と表現したらよいのだろうか]
という狂歌が地元で伝えられていることにもよくあらわれています。