前に、第208回で全国各地の『方言トランプ』のいろいろを取り上げましたが、今回は、そのちょっと変わり種をご紹介しましょう。(第210回も参照)
富士通(FUJITSU)が、かつて販売促進用のノベルティーグッズとして作った、大阪弁の『方言トランプ』がそれです。第208回で取り上げたものはここ数年の間に制作されたものでしたが、これはだいぶ先輩に当たります。
カードの裏には、小さい丸い鼻メガネに、ちょびヒゲ、腹巻き、ステテコ姿の「タッチおじさん」が載っています。(1994年から2001年にかけて、同社のパソコンのPRに活躍したキャラクターでした。今では懐かしい存在ですが、きっとどこかで元気に過ごしていることでしょう)
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これは、通常のトランプのマークと数字の他に、併せて大阪弁が漢字かな交じりで書かれているのですが、それが単語ではなくてすべて会話体の文になっています。その表現の意味も英語訳が上のほうに大きく書かれ、共通語訳は下のほうに小さくローマ字で表記されています。
その場面に合わせたイラストもあって、幼い坊やと、右の耳がちょっと倒れたかわいい子犬がどのカードにも登場します。
これをカードの種類別に並べて番号順に見て行くと、関連する表現が並び、ストーリーが展開するように配慮されています。例えば、ダイヤの場合は、次のようになっています。
1. それを見せてくれへん。 Please show it to me.
Sore o misete kudasai.2. これは、何ぼでんねん。 How much is this?
Korewa ikura desuka?3. もうかってまっか。 Are you making a money?
Hanjô shite imasuka?4. こうてこうてこうてぇな 。 Buy out please.
Katte katte katteyo.5. もっと安いのを見せて~な。 Please show me some cheaper ones.
Motto yasui no-o misete kudasai.6. まけてぇな。 Discount please.
Yasuku narimasenka.
以上のように、ある場面でのやりとり、この場合には「買い物」の際の客と店員との会話が続いています。
その企画・制作の意図をかつての担当者に聞いたところ、「単なるトランプではありきたりになるので、タッチおじさんキャラクターの持つ強い特長(関西弁など)を活かしてストーリー性を持たせることで楽しめること、さらにはプレミアムとしてもお客様に喜ばれるグッズにしたかった狙いがありました」とのこと。
その狙いどおり、もらった人たちからもユニークで、個性的で、おもしろい、と、大変好評だったということです。
近年、日本の方言をローマ字表記にし、その意味を英訳して示すケースが見られますが、このトランプもその例のひとつです。
【参考】富士通のキャラクター「タッチおじさん」については、「タッチおじさんわーるど」でプロフィールなどが紹介されています。//pr.fujitsu.com/jp/news/1999/Oct/29.html