我が家には一か月ほど前から冷蔵庫にセイウチが住んでいます【写真1】。セイウチは寒いところに住む動物で口の周りには髭があって、牙が発達しています。冷蔵庫のドアを開けるとセイウチが「よく来たね。僕の家に」と沖縄方言のアクセントであいさつします。ときによっては「お疲れやー(お疲れ様)」や「いきなり開けるからびっくりしたよ!」と言うときもあります。「~やー」は、後述の「~さー」とともに「ね」「なあ」に相当し、念押しや確認の意味があります。
夕食の献立を考えながらゴソゴソと食品をとり出そうとしていると「何探しているわけ(さがしているの)」と聞きます。「僕も食べたいさー(食べたいよ)」や「ちかごろ、ちゃーやが?(調子はどう?)」と話しかけてきます。「ちゃー」は「いかが」「どう。元気か」の意味です。いつも寂しく冷蔵庫のなかでひとりぼっちなのでドアを開けると、このときとばかりに次から次へいろいろ話しかけます。
無視して返事しないでいると、すかさず「あっきさみよ(あらまあ)! 電気がでーじ(とても)もったいない!」「早く閉めないと!」と怒り出します。「あっきさみよ」は「あきさみよー」とも言われ、「あらまあ」と驚いたとき、悲しいときなどに発することばです。
制作に関わっていらっしゃる小野暁海さん(ソリッドアライアンス株式会社)に電話で尋ねました。現在、岩手県(アザラシ)、京都府(ペンギン)、鹿児島県(シロクマ)、沖縄県(セイウチ)の4つのバージョン【写真2】があるそうです。
理由を聞いたところ、東北、関西、九州、沖縄にそれぞれ一県ずつ作って全国の方に楽しんでもらおうと考えたとのこと。4つのなかで京都府だけが女性の声優が話しています。「Fridgeezoo HOUGEN」という商品名ですが、4頭すべての動物を冷蔵庫で飼ったらさぞうるさいことだろうと想像しています。「地球の温暖化や環境汚染のため住処をなくした動物たちが行き着いた場所。それは冷蔵庫だった。」と説明書きがあります。この動物たちはそれぞれの地域で覚えた言葉(方言)を毎日顔を合わせる人間に向かってしゃべりはじめたのです。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。