地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第304回 山下暁美さん: 山形県4地方の方言

筆者:
2014年6月14日

山形県は,地理区分が4つになっています。これら4地区間では,方言の違いも顕著です。今回は,そういう山形県内の同じ意味の方言が地域ごとに並べられているポスター【写真1】の歓迎方言メッセージを紹介します。

(画像はクリックで全体表示)

【写真1】4つの地域の歓迎方言メッセージ
【写真1】4つの地域の歓迎方言メッセージ

山形市の観光情報センターに,「よくいらっしゃいました」を,4地区各々の方言で表したポスターが4枚並べて貼られていました。1番左は最上(もがみ)地方「よぐきてけったにゃー」です。2番目は庄内(しょうない)地方「よぐきたの~」です。3番目は村山(むらやま)地方「よぐござったなっす」です。1番右は置賜(おきたま)地方「きとごやっておしょうしな〔おこしくださりありがとうございます!〕」です。置賜地方だけ他の3地方と異なる構成になっているのは,この地方の中心地,米沢(よねざわ)の方言で「よくいらっしゃいました」は「ヨクゾ ゴザッタナッシ」で,村山地方との差があまりないからだと推定されます。「おしょうしな」については,第71回「『天地人』は米沢に」を参照してください。

山形県内の4地方の区分について,山形県民や出身者は,基本的に理解しています。
 庄内地方:鶴岡(つるおか)市と酒田(さかた)市を中心とする“県北西部=日本海沿岸”
 最上地方:新庄(しんじょう)市を中心とする“県東部”
 村山地方:山形市を中心とする“県中央部”
 置賜地方:米沢市を中心とする“県南部”
です。特に,庄内と内陸側の3地方(最上,村山,置賜)との差が大きいのです。庄内地方と,最上~村山地方との間には,東北地方の方言を地理的に大きく南北に分ける境界線が走っています。東北地方6県のなかでも,岩手県と並んで県内の方言差が著しい県です。これら4地方間で異なるのは,方言に関することだけではありません。天気予報の地区区分もこのまま表現します。

【写真2】山形方言グッズ(定規)
【写真2】山形方言グッズ(定規)

これに関連して,山形県の方言グッズを制作している株式会社尚美堂社長の逸見良昭さんに,お話を伺いました。同社では,貯金箱,卓上カレンダー,ペン立て,扇子,定規【写真2】手ぬぐい,ボールペン,ストラップなど18種を作っています。商品を作るにあたって気をつけていることが二つあるそうです。第1は,最近子供たちが昔ながらの方言を話さなくなってきていることを憂慮し,身の回りで使えそうな方言を入れるようにしていること,第2は,県内4地方の方言をなるべく均等に使うようにしていることです。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 山下 暁美(やました・あけみ)

明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』 『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。