今回は,犯罪被害を方言で防止する意図の方言メッセージと方言ネーミングです。本題の前にタイトルについて少し説明します。「特殊詐欺」は最近マスコミでよく目に耳にする用語です。以前,孫や息子になりすます「オレオレ詐欺」と呼ばれたものなど,多種多様な手口があり,これらの総称です。2004年12月から「振り込め詐欺」と呼ばれました。さらに,現金を持たせる手口も出てきたため,別の呼称が必要となり,2013年5月に「母さん助けて詐欺」が出ました。これが定着せず,また,前のとおり,手口がさまざまなので,マスコミ等では「特殊……」が主流となっています。
それでは本題です。一つ目は方言メッセージの用例です。滋賀県警察による「振り込め詐欺に 気ぃつけておくれやっしゃ~」〔振り込め詐欺に気をつけてくださいね〕です【写真1】。そもそも特殊詐欺は主に高齢者を狙います。そこで方言の出番です。共通語より方言の方が身近に感じてもらえるのはこの連載の趣旨の基本です。対象が高齢者なら,より大きな効果が期待できます。この用例は,純粋に滋賀県の方言というより,同県出身で,滋賀県警察の「振り込め詐欺根絶大使」(2014年11月任命)の末成由美さんの名せりふがもとです。末成さんといえば,吉本新喜劇で「ごめんやして,おくれやして,ごめんやっしゃ~」[注1]と挨拶し,舞台上の他の人物がコケるのがパターンですね。
二つ目は方言ネーミングの用例です。富山県警察の「もうかるちゃ詐欺」〔(必ず)儲かりますよ詐欺〕[注2]です【写真2】。出資金の何倍もの利益が確実にある,という投資型の手口ですね。特殊詐欺を富山の方言で表現することで,より身近に防犯意識を持ってもらうわけです。この幟は富山駅前交番に立てられていました[注3]。富山での方言による犯罪被害防止は,交番のすぐ隣の富山駅南第2自転車駐車場にも「カギかけんまいけ!」〔(自転車の)鍵を掛けましょう〕の方言メッセージが大きく出されていました。
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《謝辞》資料撮影にご協力いただいた大津駅前交番と富山駅前交番,また,資料掲載をお許しいただいた滋賀県警察(生活安全部 生活安全企画課 犯罪抑止係)および,株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシーに,この場を借りて感謝申し上げます。
[注1]最近は末尾が「…やっし~」ですが,スウィング吉本ビル(大阪市中央区:元の「なんば花月」跡地,現「なんばグランド花月」至近)の入り口には,このままが出ています
[注2]富山方言の「-ちゃ」について「第308回 富山県の観光PR誌『ねまるちゃ』」に説明があります
[注3]用例の取材は2014年11月でした。北陸新幹線開業に伴う駅周辺整備事業のため,2012年1月19日から仮駅舎の西側に移転しているときでした