大分県立美術館が今年4月に開館しました。建物そのものが,美術品といってもいいほど個性的です。開館以来,数々の催しが行われ,8月には「進撃の巨人展」「『描(か)く!』マンガ展」と「大分県立美術館コレクション展」を開催していました。特に「進撃の巨人展」は大変な人気で,8月下旬には早くも入場者が6万人を超えたとのこと。開館前から九州各地に美術館のポスターを掲示していました。誘いにのって訪れると,館内では,「方言」も来場者サービスの一翼を担っていました。
「マンガ展」の出入り口には,撮影コーナーを設置。観光地に行くと,よく板に描いた人の顔の部分がくり抜かれていて,そこに自分の顔をはめ込んで記念撮影ができるようになった「顔はめパネル」が設置されていますが,大分県立美術館では,プラカードがそれに代わる役割をしていました。
来場者は①「OPAMに来ちょんよ!」や②「『描く!』マンガ展おもしりかった!」など吹き出しに書かれたプラカードを好みで選んで記念の撮影をします。【写真1】
「OPAM」は「Oita Prefectural Art Museum」の頭文字です。「来ちょんよ」は共通語の〔来ているよ〕に当たり,共通語と異なるのは文末表現だけなので,県外からの来館者にも意味はすぐに伝わります。「て+おる」は福岡県の西部域では「とる」「とー」、東部域では「ちょる」ですが,大分県ではさらに「る」が撥音化して「ん」に変わります。その結果「ちょん」となります。大分方言になじみのある人なら「いかにも大分らしい」と感じるでしょう。
②「おもしりかった」は〔面白かった〕の意で,「おもしろい」の -oi[‐オイ]という母音連続が融合して「おもしりー」(終止形)となったものに,過去を表す「‐かった」が直接続いています。つまり終止形の「おもしりー」を語幹相当の形と見なして「おもしりーねー」「おもしりーなる」または「おもしりーくなる」のように「ねー・なる」をつなげます。同様に,「かった」をつなげれば、「おもしりーかった」が出来上がるわけです。なお、ここでは「終止形」はさらに進んで短く「おもしり」になっています。これは「形容詞の無活用化(学校文法で言えば語尾が変化しない)」と言われ,主に若い世代に見られます。-oi[‐オイ] が -i:[‐イー] になるという音変化とともに大分方言の特徴の一つです(多くの方言では,-oi[‐オイ]は -e:[‐エー]になるのが一般的です)。
意味は何となくわかるが,ちょっとだけその地域らしさが感じられるところが,いかにも大分方言らしさを表しています。