『クラウン独和辞典』には約6万語が収録されているが、その中には多くの借用語(外来語)も含まれている。借用語の大半は西洋古典語であるギリシャ語・ラテン語系のものとフランス語を中心とするロマンス語系のものである。これらについては、語源欄に由来を記してあるので参照されたい。
近年では、日本語と同様にドイツ語においても英米語からの借用が盛んである。特に1990年代以降、英語系借用語を使うのがin(おしゃれ)という風潮が強まり、広告業界や若者はもとより、公共機関までがノリの良い(?)英語系借用語や「独製英語」を乱用する始末だ。たとえば、ドイツ鉄道では旅客案内所をService Point、出札窓口をCounterと呼んでいる。一方で、この「英語の氾濫」を嘆く言語純化主義者も少なからずおり、彼らはこの英語かぶれのドイツ語、つまりDenglisch(<Deutsch+Englisch)を駆除せんと躍起になっている。
我々編修委員は、Denglischを排斥する立場にも奨励する立場にもないが、少なくとも一般に受け入れられている英語系借用語は見出し語に採用すべく努めた。英語系借用語については、英和辞典を見れば良いとも言えるが、一旦ドイツ語の語彙に受け入れられ、それなりの頻度で用いられるものであればドイツ語辞典に採用するのが筋だからである(もちろん、上述のService Pointのような特殊なもの、あるいは一過性のものまで網羅主義的に採用する愚は避けた)。
『クラ独』第4版に載っていてA社のX辞典(5万6千語)とB社のY辞典(5万3千語)のいずれにも載っていない語をランダムに拾ってみると、次のようなものがある。Brunch「ブランチ」、Date「デート」、Deal「取引」、happy「ハッピーな」、shoppen「ショッピングする」、またIT関連では、Browser「ブラウザー」、Notebook「ノートパソコン」、Spam「スパム」、chatten「チャットする」等々。もちろん、収録すべき語はまだまだある。口語でよく使われるsorry「ごめんなさい」やsexy「セクシーな」は次回改訂時には盛り込みたい。最後に、第4版への補足を1つだけ。1484ページのups「(失敗や狼狽に際して)おっと、ありゃありゃ」には対応英語としてoopsが挙げられているが、そもそもupsは英語oopsを借用して、ドイツ語式に綴ったものである。したがって、むしろ語源欄に[英語]と記すべきであった。ちなみに、この間投詞は今ではすっかり定着して、昔ながらのhopplaは「死語」化の危機に立たされているとか。