地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第200回 大橋敦夫さん:あの西郷さんが、ラーメンに(鹿児島)

筆者:
2012年5月5日

幕末・維新の英傑のひとりとして名高い西郷隆盛。今日では、東京の上野公園にある愛犬を連れた銅像が有名で、一般には「西郷さん」と親しまれていますね。

が、出身地・鹿児島の言葉では、「せごどん」[=西郷殿の転じたもの]もしくは、「せっどん」となり、その名を冠したラーメンが販売されています。

【写真1 ラーメンのパッケージの写真】

九州らしく、とんこつ味のラーメンですが、開発・命名の意図を、お聞きしてみました。

●「せごどん」と銘打った意図は?

何といっても西郷隆盛は鹿児島を代表する英雄であり、地元では「せごどん」(西郷殿)と呼ばれ親しまれています。弊社の「鹿児島せごどんラーメン」も西郷さんのように鹿児島を代表するラーメンに育ってほしいとの思いから命名いたしました。

また、西郷さんの座右の銘「敬天愛人」を念頭に、天を敬い人を愛すことを心がけ、人の笑顔を思い浮かべながら丁寧に作りました。

●お客様の反応は、いかがですか?

とんこつラーメンでありながら、あっさり味で、老若男女問わず大変喜ばれています。また、どこかなつかしい味だとリピーターが増えています。

●販売の範囲は、鹿児島県以外にも広がっていますか?

日本全国どこでもお送りしております。

 

「西郷さん」ではなく、敬意をこめた「どん」をつけて「せごどん」と呼ばれているのは、今でも地元の方々に愛されていることを物語っています。

『鹿児島県方言辞典』(橋口満著/桜楓社1987)にも、関連語として、

 せごどんのきざ=南洲神社の階段

 さいごーぐさ=荒地野菊

 さいごぐさ=荒地野菊

 さいごぎっ=百日草

 さいごばな=百日草

などが挙げられています。

これまでに書かれた伝記類は、まさに汗牛充棟ですが、『日本でいちばん好かれた男』(鮫島志芽太/講談社1978)というタイトルのものもありました。鹿児島発の「せごどんラーメン」の今後に注目です。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。