地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第201回 田中宣廣さん: 復興を目指す方言メッセージ

筆者:
2012年5月12日

昨年の今頃は,東日本大震災の被害のなかで,方言エールなどを中心に考察してきました。あれから1年余が経過し,被災地の人々の意識や支援のあり方は,だいぶ変わって来ました。そこに使われる方言の拡張活用例も,生存の段階から復興を目指す段階に移って来ています。今回は,そういう被災地の最近の拡張活用例を紹介します。

(写真はクリックで周辺も表示)

【写真1】山田祭のポスター
【写真1】山田祭のポスター
【写真2】お客さまをお出迎え
【写真2】お客さまをお出迎え
【写真3】お客さまをお見送り
【写真3】お客さまをお見送り
【写真4】被災地宮古駅のお出迎え
【写真4】被災地宮古駅のお出迎え
【写真5】山田線川内駅のお出迎え
【写真5】山田線川内駅のお出迎え

まず,中心部が全滅に近い被害を受けた岩手県山田町では,震災後1年の今年3月に「復興山田がんばっぺし祭り」が開催されました【写真1】。「かきくけこ」(第46回)が戻ってくる日のため,がんばります。

もう一つは,JR東日本の「いわてデスティネーションキャンペーン」(4月1日~6月30日)です。岩手県内で,現在JR線が運行されている範囲に,各地の方言メッセージが掲げられています。岩手県の玄関口・盛岡駅には,新幹線ホームから改札に向かう途中に「よぐおでんした 盛岡さ!」【写真2】,コンコースから新幹線ホームへの上がり口には「またおでってくなんせ 盛岡さ!」【写真3】,その他たくさん出されています。

被災地にも一部に歓迎のメッセージが出されました。JR宮古駅に「みやこさ よぐおでんした」のメッセージが掲示されました【写真4】。復興の始まりです。山あいの駅(山田線「川内:かわうち」)でも「いわてさ よぐおでんした」とお出迎えです【写真5】。

ここで,全国の皆さんにお願いです。津波被災地では,今回紹介した用例の地区と異なり,いまだ復興を目指す段階が難しいところがほとんどです。地区の住民が分散移住して元の地区の再生が困難となり,方言を形成する1地点がなくなりかけているところもあります。お願いはこういう現状をぜひ理解していただきたいということです。これから先も皆さんからのご支援が必要です。どうか,よろしくお願いします。

第196回の補足》

東北自動車道紫波サービスエリアの,かつて,平太くんが「よぐおでんすた」と迎えていた場所は,改装工事が終わり,4月26日に,地元の食材を使ったオリジナルメニューを提供するコーナー「SIWA SWANS(シワ スワンズ)」となりました。

また,岩手県花巻市にかつてあった足湯「いっとこま」は〈花巻の方言で「少しの間」「短い時間」の意〉と紹介しましたが,語源は「一時(いっとき)(ま)」です。同県宮古市では,現在でも「イットキマ」の語形でよく使用されます。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。