昨年の今頃は,東日本大震災の被害のなかで,方言エールなどを中心に考察してきました。あれから1年余が経過し,被災地の人々の意識や支援のあり方は,だいぶ変わって来ました。そこに使われる方言の拡張活用例も,生存の段階から復興を目指す段階に移って来ています。今回は,そういう被災地の最近の拡張活用例を紹介します。
(写真はクリックで周辺も表示)
まず,中心部が全滅に近い被害を受けた岩手県山田町では,震災後1年の今年3月に「復興山田がんばっぺし祭り」が開催されました【写真1】。「かきくけこ」(第46回)が戻ってくる日のため,がんばります。
もう一つは,JR東日本の「いわてデスティネーションキャンペーン」(4月1日~6月30日)です。岩手県内で,現在JR線が運行されている範囲に,各地の方言メッセージが掲げられています。岩手県の玄関口・盛岡駅には,新幹線ホームから改札に向かう途中に「よぐおでんした 盛岡さ!」【写真2】,コンコースから新幹線ホームへの上がり口には「またおでってくなんせ 盛岡さ!」【写真3】,その他たくさん出されています。
被災地にも一部に歓迎のメッセージが出されました。JR宮古駅に「みやこさ よぐおでんした」のメッセージが掲示されました【写真4】。復興の始まりです。山あいの駅(山田線「川内:かわうち」)でも「いわてさ よぐおでんした」とお出迎えです【写真5】。
ここで,全国の皆さんにお願いです。津波被災地では,今回紹介した用例の地区と異なり,いまだ復興を目指す段階が難しいところがほとんどです。地区の住民が分散移住して元の地区の再生が困難となり,方言を形成する1地点がなくなりかけているところもあります。お願いはこういう現状をぜひ理解していただきたいということです。これから先も皆さんからのご支援が必要です。どうか,よろしくお願いします。
《第196回の補足》
東北自動車道紫波サービスエリアの,かつて,平太くんが「よぐおでんすた」と迎えていた場所は,改装工事が終わり,4月26日に,地元の食材を使ったオリジナルメニューを提供するコーナー「SIWA SWANS(シワ スワンズ)」となりました。
また,岩手県花巻市にかつてあった足湯「いっとこま」は〈花巻の方言で「少しの間」「短い時間」の意〉と紹介しましたが,語源は「一時(いっとき)間(ま)」です。同県宮古市では,現在でも「イットキマ」の語形でよく使用されます。