山形県鶴岡市は、方言学者のあいだでは有名です。話しことばについての大調査が繰り返されて、1950年から2011年の第4回調査まで、約60年の変化が分かります。一方目に見える方言も変化しました。結論からいうと、「買える方言」は減って、「買えない方言」が増えたようです。
「買える方言」の典型、方言手ぬぐいや方言のれんは1970年代に10種ほどありました。団塊の世代が買ったのでしょう。しかし今は少なくなりました。一方方言を使った商品(漬物など)が、1990年ころから見られるようになりました。手元に証拠の容器があります。
方言店名自体は「買えない方言」です。それが増えたのは20世紀末期からのようです。小学校高学年のとき(1955年頃)に「鶴岡銀座」の店名を調べたことがあります。方言店名はありませんでした。今も「本町」つまり鶴岡市中心部の店では0です。しかし、ほかの地域の店や施設で方言が使われるようになりました。
「物産館」と呼んでいたみやげ物の施設が、「物産大店 でがんす」に変わったのは2002(平成14)年です。パンフレットの隅に、《「でがんす」とは庄内の方言で「~です」「でございます」の意味》と書いてあります。「めんごい」(かわいい)という子ども一時預かり施設もあります。商店では「だだちゃ」(父)、「ととこ」(にわとり)、「ざっこ」(雑魚)、「ごんぼ」(ごぼう)、「よれちゃ」(寄りなさい)、「よってみっちゃ」(寄ってみなさい)、「なんだ屋」(何?)などがあります。
今は藤沢周平原作の映画「蝉しぐれ」「たそがれ清兵衛」などで、庄内弁が全国に流れるようになりました。観光にも力を入れているようです。鶴岡の方言店名の増え方に注目しましょう。
筆者(井上)は鶴岡市で1942年に生まれて18歳まで過ごし、その後も平均すると毎年1回ほどの割合で帰省していました。記憶と資料に基づいて、ことばの状況を記しました。