クラウン独和辞典 ―編集こぼれ話―

105 お酒の話

筆者:
2011年1月17日

先に私がお酒(ビール)の話(第98回)を書いたら、早速お酒に詳しい I 先生から訂正の連絡をいただいた。

「Russeは地域によって違うのかもしれませんが、少なくともバイエルンではRuss’nはヴァイツェンビールとレモネードを混ぜたものです。ふつうのビールとレモネードなら良く知られたRadlerです……」

他にも誤記訂正などあったのだが、煩瑣になるのでいちいちここには紹介せず、私個人の反省材料に使わせていただくことにする。I 先生、ありがとうございました。

以前にはケーキのサバランさえ口に出来なかったという、代々酒が飲めない(呪われた)家に生まれた私などが酒の話に口を出すと、必ず失敗するのは分かっていることなのに、懲りずにやってしまう。実は以前にもI先生に叱られたことがある。

『クラウン独話辞典』の最初の原稿が機械的に割り振られた際に、どういう手違いか私にWeinの項が回ってきた。ろくに飲んだことすらないワインのことを(これまでの人生で3回くらい口にしたことがある)、仕方ないのであちこちの辞書から引き写して何とか形にしたが、我ながらぼけた原稿である。いつも頼りにする妻も酒が駄目なので、今回ばかりは助けてくれない。悪いことはできないもので、これが I 先生に見つかってしまった。I 先生は覚えておられないだろうが、私のまずいWeinの原稿を見るなり、「駄目だよ、Weinのことを石井君なんかに書かせたら。原稿に魂が入ってない。」

石井の書くワインの原稿には魂が入っていない!けだし名言であって、I 先生らしい的確な上に味わいのある表現がひどく気に入って、前の原稿にも登場してもらった、急逝した故 F 先生に紹介した。故 F 先生は、飾らない飄々たる I 先生の人柄をかねがねとても愛していたので、このエピソードも喜んで聞いてくれた。そんなことまで思い出しましたよ……。

あ、ちなみにWeinの原稿はお酒に詳しい他の編集員の方々が全面的に改稿し、立派なものになっているので、読者諸氏は安心願いたい。

筆者プロフィール

『クラウン独和辞典第4版』編修委員 石井 正人 ( いしい・まさと)

千葉大学教授
専門はドイツ語史
『クラウン独和第4版』編修委員

編集部から

『クラウン独和辞典』が刊行されました。

日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。

(第4版刊行時に連載されたコラムです。現在は、第5版が発売されています。)