Krapfenというドーナツ風の揚げ菓子があって、日本人にも好きな人が多い。ローマ時代にさかのぼる古い歴史を持つのだそうで、実に様々な変種がある。Krapfenがアメリカに渡りドーナツになったようだが、原形は恐らく、ライン地方で春のカーニバルの季節に食べる揚げ菓子だろう。一口大で、ドーナツのような穴はないのだが。
揚げ菓子の中で、一年中食べられて、一番知られているのは、やはりBerlinerだろう。外見ときたらまったく日本で馴染みのアンドーナツそっくりで、一口食べるとその生地もまさしくアンドーナツ、ただし中身は酸味のきいたさっぱりしたジャムで、アンドーナツよりこちらの方が美味しいという人も多い。これは本来Berliner Pfannkuchen(ベルリン風パンケーキ)の略なので、ベルリンではちゃんとただのPfannkuchenと呼ぶ。
Pfannkuchenといえば、Kaiserschmarrenという変種も、日本人は好きだが、ドイツではもう古くさいお菓子のようだ。干しぶどう入りの分厚いPfannkuchenを焼いて、表面が固まった段階で、スプーンでかき回し、スクランブルエッグのような状態にして、シナモン砂糖をかけて食べる。むしろ家庭で食べる、お母さんの手作りおやつという感じか。
こういう古くからあるパン菓子類も、多くは人気が無くなって、いつの間にか姿を消したりする。Berlinerなどは、見るからにカロリーが高そうで、時代の流れに逆行する感じだが、意外に健闘して生き残っている。Dampfnudelという蒸しパンなどは、安くてたべでがあって腹持ちが良く、昔はどこのパン屋にもあったが、もう全く見られなくなった。
Amerikanerという、丸くて平たい、甘食のようなパンに砂糖で白くアイシングした菓子を置いている店も少なくなった。甘食と同じで、素朴だが飽きのこない、懐かしい味が好きだった。因みにこのAmerikanerという名称の由来に諸説あるのだそうで、つい二、三年前にも、ProSiebenという放送局でやっている人気番組Galileoで、取り上げていた。普通Amerikanerは白一色のアイシングではなく、チョコレートの黒と二色に塗り分けられていることが多く、これを白人と黒人の共存するアメリカ合衆国に見立ててAmerikanerと呼ばれるようになったのだと、私などもドイツ人の友人から教えられてきたが、どうも違うらしい。しかし戦後復興期の香りがするこの伝説はそのままとっておきたい気がする。