たとえば緑色のジュースがあったとしたら、日本人なら何味を期待するだろうか。緑茶の系統ではないとすれば、普通はメロン味ということになっている。日本ではソーダ水というと緑色でメロン味のものを指すことになっていたから、その影響だろうと思う。ソーダ水といえばメロンソーダという日本のこの決まりは何時から、どういうきっかけで始まったのか誰か教えてくれないだろうか。
めったに見かけないが、もしドイツで緑色のお菓子やジュースがあったら、もちろんメロン味ではない。緑色のグミは、酸味のある青リンゴ味である。ではジュースなら?それが、ヴァルトマイスター Waldmeisterという「ヤエムグラ属」の植物からとった香料の風味である。古くから香料として使われており、パンチ酒Bowleによく用いて、ヴァルトマイスター入りパンチのことを特にMaibowleと呼んだりする。
ヴァルトマイスターの風味はクマリンという成分に由来するのだそうで、日本だと桜餅の風味(つまり塩漬けにした桜の葉の香り)がそれだという。さわやかな青臭さとでもいうべきか。このヴァルトマイスターをレモネードにひたしてシロップを作るのだが、本当は緑色にはならない。森の香りのイメージから、緑色に着色しているらしいのだ。
特に驚くのは、ヴァイツェン・ビールWeizenbier, Weißenbier, Weißeとのカクテルである。ベルリーナー・ヴァイセBerliner Weißeというベルリン名物のビールがあって、キイチゴ(Himmbeere)かヴァルトマイスターのシロップと混ぜて飲む。赤や緑の甘酸っぱいビールを、特別のグラスに入れて、ストローで飲むのが決まりである。私は酒が飲めないのでよく知らないのだが、ビールをカクテルにして飲むというのはドイツでよく行われているらしい。ビールとコーラを混ぜたものは、コーラ・ビールだのビール・コーラだのディーゼルだの各地にいろいろな名称があるそうだ。レモン・ジュースとビールを混ぜた「ロシア人Russe」というのも、友人のドイツ人が一時期凝っていた。
若くして惜しまれつつ急逝したドイツ文学者のF氏とドイツでレストランに入った際に、メニューを見てニヤリと笑った彼は、「お前は酒が飲めなくて見る機会がないだろうから、面白いものを見せてやろう」と言って、Berliner Weißeを注文してくれた。ストローで飲む緑色の飲み物がビールだと聞いて、酒を飲めない私も仰天した。驚く私の様子をおもしろがっていたF氏の優しい笑顔が忘れられない。