前回は話題を転換するときの表現を取り上げましたが、今回は脇道にそれることを合図する語句を考えてみます。
by the wayは、前回も述べましたように、話題の転換にかかわる代表的な表現ですが、話題そのものを換えるというより、本筋から離れることを含意する用法もあります。次例は本辞典の記述です。
3 〈本筋とは関係ない情報を付加して〉ついでながら, 話ついでに, ちなみに: He, she and I, by the way, are cousins. ついでながら, 彼と彼女と私はいとこ同士です // What makes a boomerang return? The word “boomerang,” by the way, comes from a tribe in Australia. どうしてブーメランは戻ってくるのだろうか. ついでながら, 「ブーメラン」という語はオーストラリアの1部族に由来するものです.
第1例は、たとえば、「3人がいとこである」という情報は話の本題には直接関係のないことを含意し、第2例の中心となっている話題は「ブーメランはどうして戻ってくるのか」ということです。三省堂コーパスから中心話題に戻る例をあげておきます。
“Do you have fun acting? By the way, you are cute.” “Thank you for the “cute” comment. Acting to me is the fun part.”「演技は楽しいですか。よけいなことですが、あなたはすてきですね」「ほめていただいてありがとう。そう、演技はわたしにとって楽しみなところです」
演技についての話の中に脇道にそれた会話が挿入されており、その合図としてby the wayが用いられています。
incidentallyも基本的に横道にそれることを示す語です。本辞典から引用します。
3 〈本題に付け加えて〉ついでに言うと, おまけに: Mrs. Jones came to the office yesterday, and I took her out to lunch. Incidentally, that brand-new restaurant you told me about was closed, so we had to go to somewhere else. ジョーンズさんが昨日会社に来たので, 昼食に誘ったんだ. ところで, 君が言っていた新しいレストランが閉まっていたので, 別のところへ行かなければならなかったんだよ.
次は、やや長いですが、incidentallyではじまる発話が主たる話題でないことが明らかな例です。三省堂コーパスを改変したものです。
《双子の言語習得が遅れていたことについて》“Their parents got very worried. They even sent the twins to a special school for a while, for handicapped children. But it soon became obvious they weren’t backward or handicapped at all. Incidentally, this language of theirs, they speak it incredibly fast.” “What made you interested in studying this sort of thing?” “I’m a twin myself, one of a pair, identical.”「双子の両親はとても心配になって、しばらくの間障害児のための特殊学校に入れたぐらいだったのです。が、すぐに発達が遅れているとか障害があるということではないということがはっきりしたのです。話はそれますが、彼らのことばは信じられないくらい早口なのです」「このような研究に興味を持たれたのはどうしてですか」「私自身が双子、しかも一卵性の双子なのです」
話題は双子の言語習得ですが、そのことばづかいが早いということは中心的な話題とはなっていません。
なお、by the wayにもincidentallyにもそれまでの話題から新しい話題に転換する用法もありますが、以上のような特徴からいずれも前の話題とは直接つながらないものであるという含みがあります。本辞典から引用します。
2 〈話題を変えて〉いったい, ところでねえ: I didn’t ask you to come. Incidentally, why did you come? 君に来てほしいといった覚えはないよ. で, いったい何しに来たの?
2 〈前の話題とは無関係な話題を思いついて〉話は変わるけれど, そう言えば, ところで:《会話が弾んだところで》 “What does your father do, by the way?” “He is a bank clerk.” 「ところで君のお父さんのお仕事は?」「銀行員です」