今回はあいづちについて考えてみます。「あいづち」は「相槌(鎚)」からきていると考えられ、その「相槌(鎚)」は「鍛冶で、弟子が師と向かい合って互いに鎚を打つこと」(『広辞苑』)を意味します。さらに、「相槌を打つ」というコロケーションは、その基本義から発展して、今では「相手の話に調子を合わせる」(前掲書)ということに日常的に用いられます。
英語では日本語の「あいづち」に相当する日常語がなく、わずかに専門分野でback channelという術語がみられるくらいです。だからと言って、英語にあいづち表現がないというわけではありません。以下、日本語との差に注意しながら英語のあいづち表現をみてみます。
あいづちにはいくつかの機能がありますが、そのひとつに、相手の話を「聞いていますよ」という信号を送る機能があります。英語ではこのことを具体的な語彙項目になっていない音表示、hmやmhmなどで示されます。発音記号で表すと、/hem/と/mhm/になりますが、このあいづちの打ち方は日本語にはない英語独特のものです。以下は三省堂コーパスを改変したものです。
‘And then what happened?’ ‘We went to chapel for vespers.’ ‘Hm hmm.’ ‘I left early because I wasn’t feeling very well. Someone’s following me!’ 「それから、どうなったの?」「教会に夕べのお祈りに行ったわ」「それで?」「体調があまりよくなかったので早めに帰ったの。すると、誰かがついてくるのよ」/ ‘What about you, Philip?’ ‘Well I usually start at about eight thirty.’ ‘Mhm.’ ‘And go through till five thirty, with a break for lunch.’ 「フィリップ、君の場合はどうなんだ」「そうだな、ぼくは8時半ごろ始めて」「で?」「5時半まで仕事、そのあいだに昼食時間はあるけど」/ ‘It’s not always possible to get the same job.’ ‘Mhm.’ ‘So you don’t always get as much money as you want.’「いつも同じ仕事があるとは限らない」「そう」「だから、ほしいだけのお金がいつも手に入るということにはならないんだ」
/ʌhʌ́/ と発音されるuh huhもあいづちとしてよく用いられます。
‘I call this one Daffodil, because it’s yellow, and daffodils are yellow.’ ‘Uh huh.’ ‘And I call this one Ocean, because it’s blue.’ 「これを水仙と呼ぼう。色が黄色で、水仙も黄色だから」「なるほど」「そして、これは色が青だから海と名付けよう」
また、aha /ɑːhɑ́ː/にはいろいろな用法がありますが、次のようにあいづちにも用いられます。
‘She parked there and went to get the baggage.’ ‘Aha.’ ‘When she came out, she’d gotten a parking ticket!’ 「彼女はそこに車を止めて荷物を取りに行ったのさ」「で?」「戻ってくると駐車違反の切符が貼られていたんだ」
特に電話などでは顔が見えないのでこの種のあいづちは話を続けていくにはなくてはならない項目です。