前回はあいづちのうち、語彙項目となっていないもので、「聞いていますよ」という信号を送る機能をもっている表現を考えてみました。今回は相手の話の文形式に対応することであいづちの働きをする表現をみてみます。
ここでいう「文形式に対応する」というのは、直前の相手のことばを文の形式に従って受けることをいい、さらにそれを疑問文の語順で表現することであいづち表現となります。たとえば、‘You know what? I met Bill in Tokyo.’(あのね、東京でビルと会ったんだよ)(You know what? については本辞典 (Do) you know what? の項参照)という発話に対して、‘Did you?’(そう/それで)というあいづちの打ち方です。前言の主語と動詞を入れ替え、テンスを一致させるのが基本です。通例、下降調のイントネーションを伴います。(以下の用例は映画のシナリオなどを改変したものです。)
‘I hate zoos. I can’t stand them. I want to tear doors off cages and let them all run out.’ ‘Oh, do you?’ 「私は動物園が大きらいだ。じっとしておれず、ケージの扉を開けて動物を逃がしてやりたい」「そうなんだ」/ ‘You know, I am having the best time.’ ‘Are you?’「私は今までに経験したことのない素晴らしい時を過ごしているんだよ」「そう」 / ‘Did you get everything done?’ ‘Yeah, I got a lot of good work done.’ ‘Did you?’「すべて終わった?」「ええ、よい仕事をたくさんしたよ」「そう」
ただし、同じ語順でもイントネーションが変わるとその意味合いもあいづちから変化してきます。次の例では上昇調で発話されると確認疑問文のような働きになります。
‘What does ‘S’ mean?’ ‘Oh, it’s a name. It’s short for Stuart.’ ‘Is it?’ ‘Yes.’「‘S’ってなんだろう。」「そうだ、名前みたいだ。Stuartを短くしたんだよ」「そうか」「まちがいない」/ ‘I always agree, Professor.’ ‘Is that wise?’ ‘I don’t know. Is it?’「先生、私はいつも人の意見に同調するのです」「それは賢いことだろうか」「私にはわかりません。いけないことでしょうか」
また、語順が転倒せず、語順がSVのパタンになると、その場その場に応じたいろいろな表現効果が出てきます。次の例では驚きの気持ちが伺えます。
‘Don’t contact him.’ ‘Well, I’m at his house right now.’ ‘You are?’ 「彼とは接触してはいけないわ」「といっても今その彼の家にいるの」「本当?」
次の事例は同意表現になります。
‘It’s so weird though.’ ‘I know. Very strange.’ ‘It is.’ 「とても気持ち悪いな」「ええ、ほんとに変だ」「そうね」
さらに、次の例の ‘It is?’ には疑問の気持ちが入っていると考えられます。
‘It is most important that I have a wonderful time at the dancing tonight.’ ‘It is?’ ‘Because tonight is the real beginning of my life.’「今夜ダンスで至福の時を過ごしたということが重要なの」「そうなの」「今夜が私の人生の本当の始まりなんだから」