前回は「文形式に対応する」あいづちをみてきました。今回は話し相手の発話行為に対応するあいづち表現を考えてみます。
発話行為についてはこの「覚え書き」の第4回と第5回で考察したことがあります。繰り返しになりますが、第4回の一部を再掲します。
発話行為(speech acts)は哲学起源の比較的新しい概念で、これを使うと従来の文法範疇をいわば横断的にカバーすることができます。たとえば、「窓をあけてください」という文は、“Open the window.” “Will you open the window?” “I’d like you to open the window.”などと表現することができますが、これらはそれぞれ、命令文、疑問文、平叙文、と文の形式が異なり、説明するにはその形式からはじめる必要があります。発話行為の観点からみると、これらを一括して「要請(request)」を表す表現とまとめることができます。また、文法の上位概念とみることができる現象もあり、たとえば、“You shouldn’t open the window.”に対して、文法的には“No, I won’t.”のような言い方になるかと思いますが、“Yes, sir.”などとyesで応答することも可能です。この場合は、このyesは「命令」に対して「同意」という発話行為に対応する、と説明することができます。
前半部が基本的な概念ですが、ここでは後半にかかわる「発話行為に対応する」あいづちを扱います。第34回でみた、「聞いていますよ」というシグナルを送るものに比べ、より積極的な同意を伝達する表現となります。
たとえば、次のやりとりをみてみましょう。例は Svartvik and Quirk (eds.), 1980, A Corpus of English Conversation からとったものですが、わかりやすく改変してあります。
‘I really do feel that they shouldn’t have done it.’ ‘I agree.’「彼らはあんなことをすべきではなかったとつくづく思う」「そのとおりだね」
これは典型的な「主張」-「同意」という発話行為のパタンで、「同意」が I agree という言語表現の形で現れています。次は副詞 absolutely でその同意を表している例です。
‘Why did he suggest me? Perhaps because I was the first name that came into his head.’ ‘Absolutely.’「どうして彼が私の名前をあげたのだって?それは私のことが最初に思いついたからじゃないのかな」「絶対そうだよ」
ちなみに、absolutelyが否定と結びつくときはnotを伴い不同意を表しますが、その形は命題対応となります。(‘It was an excellent film.’ ‘Absolutely not !’「とてもいい映画だったね」「とんでもない」)
次は exactly で対応していますが、前言に否定の要素が入っていることに注意しましょう。
‘He says he’ll pay the debt, but that doesn’t mean he promised.’ ‘Exactly.’「彼は借金を払うと言っているけど、約束したわけではない」「まったくそのとおり」
exactly は前の発話が肯定文であっても用いられます。この事実は相手の発言が肯定であっても否定であっても、その主張にそのまま同意するという発話行為に対応する用法が exactly にあることを意味しています。
次の yeah や quite も同様に前言が否定文であっても発話行為に対応する用法が可能です。
(講演会について)‘That was no failure.’ ‘Yeah. Cause there were more than thirty people there, you see.’「それは失敗なんかじゃなかったよ」「そうね、30人以上出席してたしね」
‘You don’t have to read all the books recommended.’ ‘Quite.’「推薦図書を全部読む必要はないよ」「そうだね」