このシリーズでは、さまざまな分野で使われている方言を取り上げています。このほどエッセンスを選んだ本『魅せる方言』が出版されました。テーマごとに並べてありますから、読みやすいでしょう。シリーズを始めた2008年頃は、「買える方言」を網羅的に集めようとしたのですが、実例が増えて、追いつきません。一方で「買えない方言」が増えました。
しかし未だに方言が使われない分野があります。その一つが乗り物の愛称です。と思っていたのですが、列車の愛称について調べているうちに、一つ見つけました。電車の先頭の名前を書いた丸い鉄板などを、ヘッドマーク、トレインマークと呼びます。そこに「おいでまい 高松運転所」というのが登場していたのです【写真】(JR四国提供)。インターネット情報によると、「鉄道の日ふれあい祭り おいでまい高松運転所」の特別列車として、平成23(2011)年以来「鉄道の日」に使われています。平成22(2010)年に第1回を予定していたのですが、台風で中止になったそうです。また平成25(2013)年も台風で中止になったそうで、多難な方言ヘッドマークです。
「おいでまい」は、「いらっしゃい」にあたる歓迎のあいさつで、香川県と愛媛県で使われます。山口県の「おいでませ」はじめ、他の実例は『魅せる方言』をご覧ください。
しかし「おいでまい」は(普通は乗れない路線の)臨時列車の愛称です。特急・急行の名前については、インターネットのサイトに一覧が載っています。鳥や山などの自然物や旧国名が使われて、方言は登場しません。この点は戦前の軍艦(戦後の自衛艦)の命名と似ています。JRはかつて日本「国有」鉄道でした。国家で運用するものに方言を使うのは、矛盾するのです。
日本国有鉄道がJRへ変身したあと、特急・急行の名前に変化がありました。外来語が増えました。国外へのまなざしです。しかしいつかは国内へのまなざしとして、方言名特急も現れるかもしれません。なにしろ国家統一の象徴である切手にさえも、方言が登場したのですから(第87回)。
なお乗り物の愛称でも、民営の長距離バスでは、方言が使われています。第249回(「よかっぺ号」が関西へ)参照。また1995年から2年間山口・近畿の夜行バス「のんた号」が走ったそうです。